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花菱落つ
第4章 義信
「私はあの者が父上の回し者でも一向に別に構わぬが」
「何と」
「父上の手の者など、私の回りには掃いて捨てるほどおるわ。私の行動など、父上には中曲輪から動かずとも数刻後にはすべて把握しておられるであろう」
「それはそうですが……」
たとえ親子兄弟であろうと、油断はできない。それが戦国の世の掟。父親を追放して当主の座に就いた信玄ならばなおのことだ。いざとなれば血の繋がった息子を陥れることなど造作もないに違いない。
……父親を追放?
義信の脳裏に、ふと、ある考えがよぎった。上杉攻めまであと一月あまり。周到な策を練れば実行は可能だと、義信は思った。
「かくなる上は最後の手段に出るしか道はない」
「……何をなさる気で?」
「今から話す。巫女舞を見ている振りをしろ」
虎昌が舞に目を向けたのを確認し、義信は策を打ち明けた。義信の目も舞に向けられている。端から見れば主従仲良く巫女舞を楽しんでいるようにしか見えないだろう。巫女舞を眺める素振りを見せながら、二人は何事かを熱心に話し合ったのだった。
「何と」
「父上の手の者など、私の回りには掃いて捨てるほどおるわ。私の行動など、父上には中曲輪から動かずとも数刻後にはすべて把握しておられるであろう」
「それはそうですが……」
たとえ親子兄弟であろうと、油断はできない。それが戦国の世の掟。父親を追放して当主の座に就いた信玄ならばなおのことだ。いざとなれば血の繋がった息子を陥れることなど造作もないに違いない。
……父親を追放?
義信の脳裏に、ふと、ある考えがよぎった。上杉攻めまであと一月あまり。周到な策を練れば実行は可能だと、義信は思った。
「かくなる上は最後の手段に出るしか道はない」
「……何をなさる気で?」
「今から話す。巫女舞を見ている振りをしろ」
虎昌が舞に目を向けたのを確認し、義信は策を打ち明けた。義信の目も舞に向けられている。端から見れば主従仲良く巫女舞を楽しんでいるようにしか見えないだろう。巫女舞を眺める素振りを見せながら、二人は何事かを熱心に話し合ったのだった。