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花菱落つ
第7章 廃嫡
「父上の仰ることはわかった。だが考えを改める気はない。私は駿河攻めには反対だ」
凪は信玄の言葉を漏らさずに義信へ伝えた。それでも義信は頑なに自らの考えを曲げなかった。
「私が賛成すればすぐにでも駿河攻めが始まるだろう。だがこのまま反対していても、父上は私を廃嫡した上で近いうちに駿河に進攻する。駿河にとってはどちらでも大して変わりはない」
信玄からの言付けは、駿河攻めに賛成すればすぐにでも蟄居を解くが、反対を続けるのであれば廃嫡する、というものだった。
「私が賛成しようが反対しようが、今川の姫である妻とは離縁され、亡くなった虎昌たちも帰ってはこない。父上は私の愛する者たちを、私から根こそぎ奪ってゆかれるのだ。ならばたとえ命を睹しても父上に抵抗し、反対を唱え続けようと思う。それが彼らの思いに報いるたった一つの方法だ」
凪には何も言えなかった。廃嫡された世子がどのような運命を辿るのか、義信も知らぬ筈がない。それでも愛する者のため、命を賭けて信玄に抗うという義信に掛ける言葉を、凪は持っていなかった。
「父上にはそのように伝えてくれ」
「はい」
かつて父親を廃し、さらに嫡男までを廃そうとする信玄。政(まつりごと)において親子とは、何の意味も持たないのだと、改めて見せつけられたのだった。
凪は信玄の言葉を漏らさずに義信へ伝えた。それでも義信は頑なに自らの考えを曲げなかった。
「私が賛成すればすぐにでも駿河攻めが始まるだろう。だがこのまま反対していても、父上は私を廃嫡した上で近いうちに駿河に進攻する。駿河にとってはどちらでも大して変わりはない」
信玄からの言付けは、駿河攻めに賛成すればすぐにでも蟄居を解くが、反対を続けるのであれば廃嫡する、というものだった。
「私が賛成しようが反対しようが、今川の姫である妻とは離縁され、亡くなった虎昌たちも帰ってはこない。父上は私の愛する者たちを、私から根こそぎ奪ってゆかれるのだ。ならばたとえ命を睹しても父上に抵抗し、反対を唱え続けようと思う。それが彼らの思いに報いるたった一つの方法だ」
凪には何も言えなかった。廃嫡された世子がどのような運命を辿るのか、義信も知らぬ筈がない。それでも愛する者のため、命を賭けて信玄に抗うという義信に掛ける言葉を、凪は持っていなかった。
「父上にはそのように伝えてくれ」
「はい」
かつて父親を廃し、さらに嫡男までを廃そうとする信玄。政(まつりごと)において親子とは、何の意味も持たないのだと、改めて見せつけられたのだった。