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【Onlooker】~サラが見たもの~
第6章 共にする、一夜?
だが一方で、そうでないかと感じていたことで腑に落ちた部分もある。それは――
『彼って、早漏なのよ』
白隅サラを初めて紹介された時。零子は黒木の最大のコンプレックスをいとも簡単にばらしてしまっていた。結果、黒木はみっともなく取り乱しているわけだが……。
後になって考えても、どうにも気に入らないことである。オンルッカー社長の紅谷零子は、相手を軽くあしらったりからかって面白がったりすることはあっても、人の心の傷を抉るようなことはしない。
そして黒木にとって、それは単なるコンプレックスではなかった。トラウマであり、アレルゲンであり、生きる上での足枷となっている。
「……」
しかし、今なら少しわかる気がした。黒木が白隅サラを異性を意識した時に、それは最大のネックと成り得る部分であるから。それを初対面でああもあっさりと明かされていたことは、そうでなかった場合に比べ随分と気が楽なことに相違なかった。
そう。あの時には既に。紅谷零子は“もう一方の可能性”をサラに示していた。それが取りも直さず、黒木俊太自身ということであり、形の上で紺野涼の対抗馬ということになろう。
すなわち、零子とサラの間に交わされた“約束”とやらも、どうやらその辺りに関連しそうだ、と黒木はそう考えた。
だとすれば、おそらく――。
「お気楽な顔してやがるくせに。お前は……一体、なにを抱えてんだよ?」
黒木は思い浮かべたサラの笑顔に、そう悪態をつく。そう言っておきながら、自分の言葉に焦れた。
零子には、ああ言われたが。サラの居る、部屋は知っている。この夜を邪魔することは可能だ。しかし――
「……」
黒木は無言で立ち上がると、ホテルを後にしようとしている。
今の自分では“選択肢”にすらなってやれないのだろう。それがわかっていたから。