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貴方だけに溺れたい
第2章  田舎同居嫁

車に乗りこみ、扉を閉めるより先にサンバイザーの裏の鏡で自分の顔を確かめていた。

自分がどんな状態なのかは分かっていたつもりだが、日焼け止めクリームの上にフェイスパウダーをはたいただけの肌は暑さのせいで血色だけは良いものの、ほぼ素っぴんだ。
しかもどこか疲れているようで貧相にも見える。

彼は本当にこれを見て"花"を想像したのだろうか……?

お世辞だという事は分かっていたつもりだけれど、こうして自分の姿を確認してしまうと一気に現実へと引き戻される。

「はぁぁぁ……もう……」

沸き上がる自己嫌悪と恥ずかしさ。
2時間もの間こんな姿で彼と向き合っていたと思うだけで、大きな失敗を犯してしまったような気持ちになる。

消えたい……。

しかし葵は沸き上がる羞恥に苛まれながらも、自分が普段とは異なる意味で"女"を意識している事に気付いていた。
不快では無い。
寧ろ恥ずかしいくせに胸の奥が躍動しているような、不思議な感覚だった。

落ち込んでいても仕方が無い。
次はちゃんとする。

そう気持ちを切り替える事が出来たのは、その感覚のせいだったのかもしれない。

しかし葵は、その"感覚"に対して深く考える事はしなかった。
単純に、森川の人間性に触発されたと思っていたからだ。
"前向きな人"と接すれば、自然と自分も前向きになる。
素敵だと思う人と接すれば、自分自身もそうありたいと思うもの。

"女"である事を意識した自分も、森川を異性として意識したからではなく、あの洗練された雰囲気に影響されたからだと思っていたからだ。

それ以外の理由なんて、考える余裕も無かったのだけど……。




***



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