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貴方だけに溺れたい
第3章 屈辱と悪夢
あれから凡そ5ヶ月の月日が経っているが、竹村は今もこの部屋にやって来る。
だいたい飲み会が中盤に差し掛かった頃。
葵の部屋から戻った多代がお風呂に入った後、リビングに繋がる寝室へと入って行くのを見計らったようにして現れるのだ。
目的なんて分かるわけも無い。
竹村の態度は以前とは違い、葵に気を使うような素振りも無ければ、顔色を窺うような雰囲気でも無い。
ただ酒に酔った赤ら顔で葵を睨み、辻褄の合わない難癖をつけて来る時もあれば、無言のまま充血した目を向けているだけの時もある。
理由さえも分からない。
葵に対して逆恨みでもしているのか、それともまた、何かを企んでいるのか……。
葵はそんな竹村に対して毅然とした態度をとってはいるが、憎悪よりも恐怖感が上回り、殆ど何も言えない状態になっているのだ。
手足は震え、蛇に睨まれた蛙のように立ち鋤くんでいるようなもの。
もしも実際にまた襲われでもしたら、葵は逃げ切れるかどうかも分からない。
それでも心臓が破裂しそうなほどの緊張の中で、精一杯の虚勢を張っているのだ。
しかし今のところ、竹村は細く開いた扉の外に居るだけで何もしようとはしない。
ただその場に佇み、葵の反応を観察しているかのように黙っているだけでもあった。
その不気味さは文句を言ってくる時よりも恐ろしく、理由が分からない恐怖感は、竹村が目の前に居ない時にまで葵を支配するようになっていた。
いつになれば終わるんだろう……。
"あの男"は、今日もやって来るのだろうか……。
飲み会のある金曜日には、いつもその事ばかりを考えるようになっていた。
そして多代が部屋を出たその後も、葵は扉の外の気配にばかり気を向けてしまい、あの男が鳴らすであろうノックの音に、怯えて過ごすようになっていたのだ……。