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貴方だけに溺れたい
第5章  枷

それはほんの一瞬だった。
けれどもその"一瞬"は、瞬く間に葵の感情に広がり、彼女の意識を支配し始めていたのだ……。

「……ッツ……あ……」
「凄いね葵。もうこんなにぬるぬるになってるよ?」
「…ッ……や…」
「……や?…本当はずっとここ触って欲しかったんじゃないの?」
「……」

あり得ない……とは思った。

風邪をひくわけにはいかない。
寝込むことも、仕事を休むわけにもいかない。

ただそんな心配をしていただけなのに……。

"だけど、それよりも……"

『公園に行けなくなるのは嫌』

最後にそう思った瞬間、葵の脳裏には、昼間の森川の姿が浮かんでしまったのだ……。

「……アッ……」

シダレザクラの下で見下ろされた時の、影をおとした表情。
しかもそれは無意識にも車の中で感じた"匂い"と共に蘇り、擦れた痛みを感じるまでの間、葵の意識を支配していたのだ。

「……もう本当にどうしちゃったんだろうね?こんなに濡らしちゃって」
「…………ッツ……」

あり得ない。
"どうして?"とも思う。
そして正直、こんな時に彼の事は思い出したくも、考えたくも無かった。

しかしその存在を意識してしまった瞬間から、葵の感情や身体が、急激に変わり始めていたのは確かだった……。

「そろそろ挿れて欲しい?」
「…………」

気が付けば、ぬるぬると滑る手つきで撫で回されるほど濡れていた。
二本の指で襞を割り、その入口で焦らすように小刻みな振動を与えられたと思うと、次には愛液に濡れたクリトリスを嬲られ、情けなくもその刺激に乱れている。

けれどもそれは不埒にも、森川の存在が頭から離れなくなってしまったから……。

"あり得ないこと"
"してはいけないこと"
"あの人の事を、性の対象としては見ていない"

しかし頭ではそう思っていても、葵は自分の本心には抗えなかったのだ……。


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