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喝采
第1章 ミサ曲ロ短調
「あんたは着替えないのか?」

 楽屋に戻った谷田部はさっさと着替えを終えたが、雫石は椅子に腰かけたまま上着すら脱いではいなかった。

「あとで着替える。着替えをわざわざ人に見せる趣味はない」
「男同士で恥ずかしがってどうするんだよ。着替えぐらい別にいいじゃねえか」
「触るな!」

 上着に手をかけた谷田部は雫石に振り払われた。今日はよく振り払われる日だと、こっそりため息をつく。

「誤解されるのは迷惑だからはっきりと言う。僕は他人に体を見られたくないんだ」

 雫石は谷田部を睨みつけたがすぐに視線を外した。ため息をついて自らの足に視線を落とす。
 谷田部は不用意な発言が雫石を傷つけたことを知った。雫石は単に恥ずかしがっていたのではなかった。何らかの理由で体を見られることを恐れているのだ。もしかしたら足が不自由なことと関係しているのかもしれない。

「……ごめん」
「いや僕の方こそ乱暴にして悪かった。僕の個人的な事情など君には知る由もないのだから仕方がない」

 雫石は素直に謝った。素っ気ない態度をとることも多いが、斉賀が言う通り、根は悪い人間ではないのかもしれない。

「折角だから、このあとどこかでお茶でも飲まないか?」

 谷田部は雫石をお茶に誘った。斉賀に言われたからではない。冷たくあしらわれてもどうにも雫石のことが気になって仕方がなかった。

 こんなに綺麗な顔をしているのに、なぜ雫石の瞳は暗く冷たい色をしているのか。
 なぜ雫石の歌は、あんなに谷田部の心を掻き乱すのか。
 谷田部はその理由が知りたかった。

「わかった」

 雫石は谷田部が拍子抜けするほどあっけなくうなずいた。嫌われているのかと思っていたが実は違うのかもしれない。今まであまりまわりにいなかったタイプの人間で、谷田部には雫石の言動がよく掴めなかった。

「サンキュ。じゃ、外で待ってる」

 谷田部は雫石を残して楽屋を出た。
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