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喝采
第3章 おお、友よ

「ありがとな、玲音。でもわざわざそのためだけにヨーロッパから飛んで来なくてもいいから。俺はほとんど日本で歌ってる。そんなことをすれば、俺が歌うたびに、お前がヨーロッパから飛んでこなければいけなくなる」
雫石が他人に好かれないなんて嘘だ。確かに気難しい面もあるが、心の垣根を越えてぐっと近づけば、真摯で誠実な本当の雫石が見えてくる。雫石が他人からの好意に気づいていないだけだ。きっと雫石に好意を持っている人間はたくさんいるはずだ。
「こんなところで時間を無駄にするな。楽屋に戻れ。時間がもったいない」
「じゃあ、終わったら打ち上げに来ねーか?」
「いや。すぐに成田に向かう」
「……何しに来たんだよ」
「演奏会を聴きに来たと言っただろう」
「そうだった。じゃ、とりあえずゆっくり聴いていけよ」
「ありがとう」
「ありがとうはこっちのセリフだぜ」
自分が雫石の立場なら、わざわざヨーロッパから飛んできたりはしないだろう。こんなに誠実で優しいのに、どこまでも人形みたいに無表情なのがおかしく、そして愛おしいと思った。
雫石が他人に好かれないなんて嘘だ。確かに気難しい面もあるが、心の垣根を越えてぐっと近づけば、真摯で誠実な本当の雫石が見えてくる。雫石が他人からの好意に気づいていないだけだ。きっと雫石に好意を持っている人間はたくさんいるはずだ。
「こんなところで時間を無駄にするな。楽屋に戻れ。時間がもったいない」
「じゃあ、終わったら打ち上げに来ねーか?」
「いや。すぐに成田に向かう」
「……何しに来たんだよ」
「演奏会を聴きに来たと言っただろう」
「そうだった。じゃ、とりあえずゆっくり聴いていけよ」
「ありがとう」
「ありがとうはこっちのセリフだぜ」
自分が雫石の立場なら、わざわざヨーロッパから飛んできたりはしないだろう。こんなに誠実で優しいのに、どこまでも人形みたいに無表情なのがおかしく、そして愛おしいと思った。

