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喝采
第6章 クリスマスオラトリオ
 今日はクリスマスイブ、十二月二十四日だ。
 十七時を過ぎ、ロビーに飾られた巨大なクリスマスツリーも、電飾を煌めかせ始めている。今回はいつものオペラタウンではなく、溜池山王のヨントリーホールでの公演だった。

「このあとどうする? どこかでなんか食うか?」

 谷田部は雫石と並んで、楽屋のある廊下をステージ衣装のまま歩いていた。二人はたった今ステージを終えたところだった。

「二人ともお疲れ様」

 突然、能天気なハイトーンボイスとともに背後から肩を強く叩かれ、二人はぎょっとして振り向いた。

 そこにいたのは指揮者の斉賀だった。すでに燕尾服から私服に着替え、鼻歌混じりの上機嫌な様子でキャリーケースを引いている。

「お疲れ様です。もう着替えたんですか? 随分と早いですね」

 二人はまだ楽屋に着いてすらいないのに、斉賀はすでに帰るところらしい。そして赤と白でコーディネートされた個性的な私服姿は、どこからどう見ても怪しいサンタクロースにしか見えない。これで海外にまでその名を知られている古楽の大家というのが谷田部には相変わらず信じられない。

「これからウチの奥さんとホテルでクリスマスディナーだからね。折角のクリスマスイブなんだから、君たちもいつまでも油売っていないでさっさと帰りなさい。ふふふ。待っててね、マイハニー!」

 斉賀は浮き浮きと軽やかな足取りで、飛ぶようにロビーの方角に消えた。あれでいて非常な愛妻家なのが妙におかしい。

「……マジかよ。こっちはぐったりだってえのに、体力半端ねえな」

 斉賀は主宰する古楽団体「コレギウム・トウキョウ」を率いてついさっきこのホールで演奏会を終えたばかりだった。谷田部と雫石はソリストとして斉賀に呼ばれ、出演していた。
 演目はバッハの「クリスマスオラトリオ」。途中に休憩を挟むとはいえ、二時間半の長丁場だ。しかも出番以外は座って待機するソリストと異なり、指揮者は演奏中立ちっぱなしで指揮棒を振らなければならない。谷田部たちより余程消耗しているはずなのに、あの元気さは理解を越えている。
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