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喝采
第10章 我、深き淵より御身に祈る
 年が明け斉賀がウィーンの自宅へ戻って数日後、雫石は瑶子に「内輪で小さなコンサートを開くから」と、半ば強引に車椅子のまま居間に連れてこられた。

 居間にある瑶子の純白のグランドピアノは、すでに演奏の準備が整っており、そこへ斉賀が白人男性を伴って現れた。男性は雫石を見ると、不思議そうに斉賀に話しかけた。

「ずいぶんと可愛らしい子だけど、君の隠し子かい?」
「まさか! 君も知ってる崇とアリサの息子だよ。ちょっと事情があって僕と瑶子で誘拐してきたんだ。ちなみに若く見えるけど、彼は声楽を専攻している大学生だよ」
「誘拐……?」

 男性は斉賀から簡単に事情を聞かされたあと、雫石の座る車椅子の傍に屈み込んで右手を差し出し、ゆっくりと話しかけた。

「子供扱いして失礼したね。私はペーター・シュミットという。君の両親と一臣の友人だ」
「いえ、お気になさらず。雫石玲音です。斉賀さんからお名前はよくうかがっていました」

 雫石は差し出されたシュミットの大きな手を握り返した。実際の年齢より若く見られるのは慣れていた。日本人で、しかも百六十五センチと小柄な雫石は、ヨーロッパでは大抵年齢より下に見られてしまうのだ。

 遅れて瑶子も入ってきた。目立った活動はしていないが、瑶子は歌伴(歌曲の伴奏)を得意とするピアニストで、コンクール等では頼まれて伴奏者を務めることもあった。

「お誕生日おめでとう、玲音。今日はあなたのためのコンサートよ。出演者は三人だけしかいないけど、楽しんでくれると嬉しいわ」
「……ありがとうございます」

 誕生日のことなど、すっかり忘れていた。両親に祝ってもらった記憶もなく、雫石にとって誕生日は、単に年齢が一つ上がるという日でしかなかった。
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