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籠鳥 ~溺愛~
第17章
その表情はすぐに消えたがびくりとも動かなくなった鏡哉に、美冬は何か言ってはいけないことを言ってしまったのかとハッとする。
「鏡哉さん――?」
心配になって呼びかけた美冬に、鏡哉がぴくりと動く。
「……そうか、もうすぐ命日だったな。悪い、気付いてやれなくて」
そう言った鏡哉の表情はいつも通りの優しいものに変わっていた。
美冬は小さくかぶりを振る。
「今週末でいいか? 一緒に行こう」
「え? だ、大丈夫ですよ、一人で」
まさかそう帰ってくるとは思わず、美冬は謙遜する。
「いいんだ。美冬の両親に、まだご挨拶していなかったからね」
ふわりと笑って美冬の頭を撫でた鏡哉に、美冬は破顔して頷いた。
そして週末の現在に至る。
美冬の髪を撫でた風がまるで彼女の気を引こうというように、くるりとその髪を巻き上げる。
両親の墓を背に鏡哉を見つめて物思いにふけっていた美冬は、はっとして墓に向き直った。
(ごめん、お父さんお母さん、また来る)
美冬はそう言ってさっと手を合わすと、くるりと踵を返した。
砂利のひかれた墓地の道を、鏡哉に向かってゆっくりと進んでいく。
近づくと眼下の街を見ているのだと思っていた鏡哉だが、その視線はその先に広がる海岸線の彼方を見つめているようだった。
その横顔が今までに見たことのないもので、美冬は急に意味の分からない不安に襲われる。
ぎゅ。
美冬は鏡哉の背中からその腰に腕を絡ませ、抱きしめる。
鏡哉にこちらを見てほしくて。
鏡哉がどこにも行ってしまわないよう、繋ぎ止めるように。
「美冬?」
腕を緩めない美冬に、鏡哉がそのままの体制で美冬に問いかける。
「早かったね、話終わった?」
美冬はゆっくりと力を抜いて、頷く。
振り向いた鏡哉がくしゃりとその頭を撫でる。