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籠鳥 ~溺愛~
第23章
朝食を食べ終わり片づけをしていると、鏡哉がキッチンに顔を覗かせた。
「……?」
首をかしげた美冬に、ネクタイを首に垂らしただけの鏡哉がそれを指さす。
「結んで」
「え?」
「前に教えてあげたでしょ」
出勤時間は大丈夫かと時計を確認すると、なるほどいつもより早い時間だった。
時間の許す限り美冬をからかって楽しむつもりらしい。
「もう、綺麗にできなくても知りませんよ?」
しぶしぶネクタイに手をかけて、記憶を辿りながら結んでみる。
美冬が悪戦苦闘している様を、鏡哉が面白いものを見るように見下ろしてくる視線が恥ずかしい。
「なんか、新婚さんみたい」
そうからかってくる鏡哉に、美冬は「恥ずかしいから黙っててください」と突っ込む。
しゅるしゅるという衣擦れの音だけがキッチンを満たす。
「う〜ん、これでいいですか?」
何度か失敗しながらも結び終えたネクタイを整えて尋ねる。
鏡哉は目で確認してようやくOKを出してくれた。
「頑張ったご褒美」
そう言った鏡哉は美冬の唇に軽いキスを落とした。
頬を染める美冬の頭を撫でジャケットと鞄を手にすると、鏡哉はキッチンから出て玄関へと移動した。
「じゃあ、行ってくる」
ついてきた美冬にそう言った鏡哉が、がちゃりと玄関の鍵を開けた。
(やだ……!)
このまま鏡哉と離ればなれになるのが耐えられず、胸がギュッと苦しくなる。
美冬はとっさに鏡哉の背中にしがみついていた。
シャツ越しに鏡哉の体温が伝わってきて、彼はここにいるんだと少しだけ胸の苦しみが和らいだ。
(鏡哉さん、離れたくない――!)
「………っ」
「美冬?」
いつまでもくっついて離れない美冬に、鏡哉が心配そうに声をかける。
このままではいつもと様子が違うと気づかれる恐れがあった。
(………っ)
美冬はしぶしぶ腕を解くと、こちらを向き直った鏡哉を笑って見上げた。
「さっきの新婚さんごっこの続きです。行ってきますのチューは?」
精一杯の強がりに鏡哉が破顔する。
「まったく、美冬には敵わない」
鏡哉はそう言うと、腰を屈めて美冬の唇をちゅっと吸った。