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籠鳥 ~溺愛~
第1章
「新堂様、私どもでお預かりいたしましょうか?」
そう伺いを立ててきたドアマンに、鏡哉は頷こうとした。その時――、
ぽろり。
少女の瞼から一筋の涙が零れた。
「……………」
つきん。
鏡哉の胸が何故か痛んだ。
そして気づくと少女をその腕の中に抱き上げていた。
「新堂様――?」
驚いた表情のドアマンを促し、助手席のドアを開かせる。
そして驚くほど軽い少女をその助手席に乗せた。
「……寝てるだけなら、うちで面倒をみる。起きたら事情を聴いて彼女を送り届けるよ」
「は、はい。では何かありましたら、コンシェルジュにご連絡下さい。この件は伝えておきますので――」
ドアマンはそう言うと一歩下がって、鏡哉が車を発進させて出てきたばかりの地下駐車場を引き返すのを見守っていた。
それから12時間――。
日付が変わり朝になっても、少女は死んだように眠りこけていた。
鏡哉は5LDKの一室のベッドに少女を運び込んでから、ずっと自分の行動に疑問を覚えていた。
(何故、こんな見も知らずの少女の面倒を見ようとしてしまったのだろう――?)
冷静沈着、言い換えれば仕事にしか興味のない冷徹男。
それが周りからの鏡哉の評価だ。
本人もそれを自覚している。
なのに少女の涙一つで動揺し、普段家政婦以外には立ち入らせない自宅に招き入れてしまった。
これから得意先の接待が入っていたのにもかかわらず。
といってもこちらは接待を受ける側だったので、鏡哉は秘書に連絡し副社長に代わりを頼んでしまったが。
そして先ほど、午後から出社すると連絡を入れたばかりだ。
午後からはどうしても抜けられない商談が一つ入っていた。
(どうかしている。この私がこんな少女一人のために仕事を投げ出すなんて……)
そう自嘲しながらも、さすがに12時間も目を覚まさない少女に鏡哉の中の不安が膨らみ始めてきた。
「おい、君」
肩を揺すってそう声を掛けてみるが、以外にも返ってきた答えはぐ〜という腹の虫だった。
「………ぷっ」
鏡哉は静かな寝室で一人吹き出してしまう。
ひとしきり忍び笑いをしてずれた銀縁の眼鏡を指先で元に戻すと、静かに部屋を出た。