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籠鳥 ~溺愛~
第10章
(もう、決めたんだ。鏡哉さんのことは諦めるって。思い出にするって。だからあの時、最後に抱いてもらったのでしょう――?)
ぼうとするといつも思い出してしまう。
あの時の鏡哉の温かく汗ばんだ肌、突き上げてくる熱い熱、苦しそうな吐息、を。
美冬ははっと我に返り、もう一度首を振って気を入れなおす。
「よし、とりあえずはバイト情報誌!」
美冬はそう呟くと、お財布と部屋の鍵を握ってアパートを後にした。
土日を使ってバイトの面接を受けまくり、美冬は夕方〜夜にかけてのバイトは決まった。
着物を着てしゃぶしゃぶを作るチェーン店だったが、1,000円と時給がよかったのだ。
夜〜明け方にかけてのバイトは、女子ということと美冬の中学生のような見た目もあってなかなか決まらなかった。
(前バイトしていたレンタルビデオ屋さんに、頼み込んでみようかな……)
月曜日、学校へ登校しながら美冬は手帳のアドレス帳をくる。
学校へ着くと担任が「夏風邪だったの? もう大丈夫?」とえらく心配してくれ、少し良心の呵責(かしゃく)にさいなまれた。
一週間ぶりの授業でついていくのがやっとだった美冬は、休み時間と終業時間後、クラスメイトからノートを借りてコピー室でコピーを取らしてもらった。
人のいいクラスメイトはずいぶん待たせたにもかかわらず、ジュース一本で機嫌よく帰って行った。
バイトが始まるのは今週末からだ、その間で一週間分を復習しなければならない。
美冬はうーんと伸びをするとアパートへ帰るべく、夏とはいえ少し日の陰ってきた外へと足を踏み出した。
帰宅部の生徒たちはとっくに帰ってしまったのだろう、人影はまばらだった。
グラウンドでは陸上部やサッカー部が真夏の日差しの中、それぞれの練習にいそしんでいる。
(もし、両親が生きていたら、私、なんかクラブとか入っていたのかな?)
そんな考えてもしょうがないことを考えながら、校門へと向かう。
しかしそんな考えはすぐに霧散した。
校門にはまるで通せんぼをするように、一台の黒いリムジンが止められていた。
その傍には遠目にもわかる、長身の高柳が立っている。
(高柳さん一人? でももし、車の中に鏡哉さんがいたら――)