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籠鳥 ~溺愛~
第10章        

「……嫌だと言ったら?」

 半月かけてやっと鏡哉を忘れる決心をしたのだ、もう美冬は鏡哉の傍に行きたくなかった。

「明日も明後日もここに来る。学校に来なければ、興信所を使って君の住んでいるところを調べ上げる」  

 揺るぎないその鏡哉の返事に、美冬は肩を落とした。

 進められるがまま助手席のシートに収まると、鏡哉はすぐに車を出した。

 静かなモーター音を上げ、車は首都高に乗る。

 美冬はてっきり車の中か近くの喫茶店で、黙秘の為の契約書にサインをするのだと思っていたのだが、首都高に乗る必要があるだろうか。

「どこに向かっているのですか?」

 不安になって運転席の鏡哉を見つめる。

「うちのマンションに決まっているだろう」

 鏡哉は前方から視線を逸らさず、当たり前のようにそう言う。

「契約書にサインをするだけなら、その辺の店でもできるじゃないですか!」

 美冬は声を荒げて抵抗した。

「内容が内容だ。他の者に聞かれてはまずい」

「嫌です! おろして下さい」

「駄目だ。君には契約する義務がある」

「……っ! では、そこに高柳さんを仲裁役として立たせてください」

 鏡哉とあの部屋で二人きりになるのは美冬としては耐え難かった。

 美冬の出した条件に、鏡哉の声音が変わる。

「高柳、だと……?」

 ふっと鏡哉から嫌な嗤いが漏れる。

「そうか、高柳に取り入って。だから独り暮らしが出来たんだな」

「………!」

 鏡哉のあまりの言いように美冬が反論しようとした時、マンションの駐車場に車は滑り込んだ。

 所定の位置に止め、鏡哉が運転席から降りる。

 助手席から下りない美冬に、鏡哉が回り込んでドアを開ける。

「降りろ」

「……携帯で高柳さんを呼んでください。到着されるまで、部屋には入りたくありません」

 美冬はがんとして譲らなかった。

「携帯を会社に忘れた。疑うのなら調べてみればいい」

 鏡哉は通勤に使っているブランド物のバッグを美冬に突きつける。

「……部屋から電話して頂けるのでしょうね?」

 さすがに人の鞄を漁る気にはなれず、美冬はそう確認する。

「当たり前だ。それが君の条件なのだから」

 鏡哉はそう言うと美冬からバッグを受け取り、先にマンションのエントランスへ向けて歩き出した。

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