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夢…獏の喰わぬ夢
第1章 春
「楽しかったよ。」
声にはしなかったが、彼女に伝わるように、口をゆっくり、ハッキリと動かした。
ふと、夢の中にいるような感覚に陥った。
大事な人に、大事なことを伝えたいのに、伝わらない。
声がでない。届かない。
必死に言葉にしようと叫ぶと、自分の言葉で目覚める。
「寝言でうなされてたわよ。」
時折、母親に言われることがあったっけ。
でも、これは夢ではない。
そして、伝えたい言葉は、彼女に届いたようだ。
今朝の夢のような、悪戯な笑みでなく、心からの笑顔とともに、彼女の唇が
「わ・た・し・も」
とハッキリ動くのが読み取れた。