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きっかけは映画館
第38章 きっかけは映画館
「麻里絵ちゃん?」
どっと雪崩れ込むように中に進む人の列、麻里絵ちゃんの俺の腕に絡められた腕が離れ、磁石で床に足がくっついてしまったように立ち止まる。
思わず名前を呼んだけど、名前を呼ばれたくなさそうだった。
波に押されてド突かれる麻里絵ちゃんがバランスを崩したので、麻里絵ちゃんの腕を引っ張り、腰に手を回してガードして進む。
「大丈夫?どうした?」
麻里絵ちゃんは黙ったまま頷いたけど、全然大丈夫じゃなさそうで、前に進むのを恐れている感じだった。
フリーズしたような麻里絵ちゃんの視線の先を見る。
恋愛映画の上映終了間際なのだから、周りはカップルだらけなんだけど、5、6列前のカップルに向かっていた。
『……さん、大丈夫?』
その男は隣の女性に声を掛けていた。
『裕司さん、ありがとう。』
元々ぴったりと寄り添うようにして歩いていた二人だったけど、どうやら裕司が腕を出したようで、女性が腕を絡めて、肩に頭を乗せて答えていた。
裕司……麻里絵ちゃんの元彼?
麻里絵ちゃんが押されて仕方なく進むということは、そうなのだろう。
俯いて歩く麻里絵ちゃんが前から見えないように斜め前に立ち、進んでいく。
通路から場内に入ると、カップルがめいめいの席を探して進んでいく。
裕司達も後ろのほうだが、真ん中の塊、俺達は隣の塊なので、一番端に向かい列を探しながら、麻里絵ちゃんが裕司の視角になるように隠した。
「麻里絵ちゃん、元彼…裕司でしょ?」
「う…うん、びっくりした。」