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第1章 抱かれる女
「涼の成績が下がっているのは、高杉笑さんのせいです」

涼の母は、険しい表情で講師に食って掛かっている。涼は始終俯いたままだった。

「どうして涼が塾をサボっているのをすぐに教えて下さらなかったんですか?」

聞くつもりは無かったけれど、涼の母親の声は、職員室に響き渡るほど大きかった。

「まぁまぁ お母さん落ち着いて下さい」

「学校から呼び出しがあって、行ってみれば成績が落ちているし、女の子と交際してるって言うじゃないですか?!」

涼の父親は弁護士だ。母親は教育熱心だと聞いていた。何度か、塾に来たことがあったので、挨拶をしたことがあった。とても綺麗な人だ。

「高杉さんが続けて通うのであれば、涼はこちらを今月で辞めさせて頂きます」

その後も涼の母親は延々と笑の悪口と、息子の成績が落ちたのは塾の落ち度だと訴え続けた。


「司くんもとんだとばっちりよねぇ。私は白井さんの方がお似合いだと思ってたんだけど」

その日その時、職員室に居た生徒は、涼と私だけの筈だったが、何故か数日後には学校の皆が知っていた。

「ねぇっあたしもそう思ってた。高杉さんのこと妊娠させちゃったんでしょ?」

「えーっ!そうなのぉ。子供どうするんだろう?もうすぐ受験だって言ってたのに…」

「司くんも自業自得じゃない?高杉って子、不良みたいな子たちと遊んでたみたいだし」

噂には尾ひれが沢山ついていた。

「白井さん?それってみんな本当なの?司くんから何も聞いてないの?」

私は仲良くもないクラスメートに急に話題を振られた。

「その前からずっとあってないし…塾にも来てなかったから分からない」

「ふーん。ざんねーん!」

…ゴシップなんてこんなものだ。

皆が好きなだけ内緒だよと言いつつ、インフルエンザのように広まって、いつの間にか消えてなくなる。

高杉笑は塾を親に辞めさせられて、涼は塾にまた真面目に通うようになった。
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