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第3章 はみ出した口紅
私は名刺をポケットに入れ、時間を潰すために本屋へと行った。暇な時は本屋へと寄る。本屋の匂いや。雰囲気が好きだ。ベンチも設置してあって、少し読むことも出来る。

…そうだ。この間買った短編集の続きを買おう。

色々ゆっくり眺めながら、アイウエオ順に並んだ棚へと向かった。
それはすぐに見つかった。手に取ろうとすると、同じ本を取ろうとした手とぶつかった。

「あ」「あ」

ごめんなさいと謝って、手を引っ込めた。その人は、既に何冊か本を抱えていた。

「どうぞ」「どうぞ」

また2人とも同時に言った。その人は30代ぐらいの男性で、優しそうだった。

「いえいえ」「いえいえ」

私は可笑しくて笑った。

「この本読んだことがあるんだ」

「え?」

「懐かしいなぁと思ってね。君は、この作家が好きなの?」

人懐っこい笑顔を浮かべていた。

「失礼します…」

私はそそくさとその場を去った。初対面の人と話すのは苦手だ。場所を移動して、雑誌や漫画コーナーを眺めていた。先ほどの小説コーナーをちらっと見たが、既にその男の人は居なかった。

…良かった。

会計の列に並び、私の順番になった。スタッフが見覚えのないカバーがかかった本を袋の中に入れた。

「これさっき男性が…あなたにですって。もうお会計は済んでいます」

スタッフはにっこり笑った。
私はさっきの男性を探すと、丁度エレベーターに乗る所だった。こちらに気がついて小さく手を振ったので、私もつい振ってしまった。そして音もなくエレベーターのドアは閉まった。





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