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悦楽にて成仏して頂きます
第6章  新生活


「あ、材料費。リビングの金庫に入ってるから、勝手に持ってっていいぞ。番号は1、2、3、4だから」
「大丈夫。お蔭様で、家賃が浮いてるから。それにしても、テキトーな番号すぎない。変えたら?」
「オレが忘れるから」
 2人で笑い合い、平凡だが穏やかな朝食を終えた。


 午後、大学へ行く為にマンションを出る。
 最寄り駅から大学へ歩いていると、急に誰かが目の前に立った。小柄なせいで、大体誰に立たれても前が見えなくなってしまう。
「桜火……」
「覚えててくれたんだ。嬉しいよ」
「何の、用よ……」
 私は1歩下がる。
「警告したよね? 響揮はもうすぐ終わるって。だから僕の助手になってよ。恋人にも」
「えっ!?」
 助手ならまだ解るが、恋人だなんて。桜火は、まだ15歳。今時の子はみんな、そんな事を言うのだろうか。
「霊が付いてるけど?」
「解ってる。これから大学だから、待ってもらってるの」
 やはり桜火にも、霊が見える。それは、特殊能力の持ち主だという意味。
「霊付きで登校か。慣れてるんだね」
 桜火が笑っている。
「力の注入は、まだだよね?」
 注入と言うのか解らないが、最近は、私も何度か社へ行っていた。そこで呪文を唱えられるのを、注入と言うのだろうか。
「社で、何度か……」
「社? 社では、ただの祈祷でしょう? そうじゃなくて、響揮とセックスしてないよねって意味」
「そんな事っ……」
 桜火はまた笑ってから、真面目な顔で私をジッと見た。
「楓さん、知らないんだ? 響揮程度からでも、注入の儀(ぎ)を受ければ、強い能力が授かるよ。中で出すんだ。呪文を唱えてからなら、妊娠しないし」
 15歳で、サラリと言うなんて。だがそれは、本当のようだ。桜火は、真面目な表情のまま。
「僕が注入してあげるよ。だから……」
「楓っ―」
 後ろから友達が走ってくる。
「じゃあ、考えといてね」
 それだけ言うと、桜火は友達に頭を下げてから行ってしまった。
「誰? 今の美少年」
「んっ。知り合いの、知り合い。たまたま、会っただけ……」
「ヤバっ。時間無いよっ」
 友達が腕時計を見て言う。
 私は桜火の台詞が気になりながらも、友達と一緒に大学へと走った。


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