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セイドレイ【完結】
第24章 性夜の鐘

「──ありがとな、亜美」
一番先に礼を述べたのは、健一だった。
「俺…なんも用意してねぇや。今度さ、買いに行こうぜ?亜美のほしいもの、なんでも買ってやるからさ」
「い、いえ…私はべつに…」
遠慮を見せる亜美に、雅彦が言う。
「それもそうだな。ワシもなにか用意せねばな…」
「お父様までっ…いいんですよ、そんなの…」
さらには慎二までもが。
「しょうがないなぁ~。じゃあ、亜美にもらったこれ着て、プレゼント選びのデートしてやるかぁ…ところでこれ、サイズ大丈夫かな?」
「い、一応…一番大きいのを選んだんですけど…」
亜美を中心に、家の中が今までにない雰囲気へと変化する。
ここだけを切り取ってみれば、微笑ましいひとつの家族の在り方に見えてしまうほどに──。
「──さぁ、細かいことは置いておくとしよう。せっかくのごちそうが冷めてしまう。はじめるとしようか」
亜美はスパークリングワインを3人のグラスに注ぐ。
そして自分には烏龍茶を注ぎ、席に戻るとグラスを持ち上げた。
「──亜美も酒飲んじゃえよ。ちょっとくらいいいんじゃね?」
「どうだ亜美?飲んでみるか?」
「い、いえ…私は遠慮しておきます…」
「…そうか。今日は忘れられない日になりそうだな。では──メリークリスマス!」
『乾杯~!』
こうして、武田家のクリスマスパーティが幕を開けた。
さっそく、亜美のお手製の料理にがっつく健一と慎二。
その様子は、まるで自分のカラダを貪るときのようだと──亜美はぼんやり思っていた。
一方の雅彦は、どの料理も少量ずつを口に運んでいるようだ。
もともと酒に強くないのか、すでに顔と耳が赤く染まっている。
そして亜美は料理を食べつつ、取り分けたり、酒を注いだりしながら、時おり笑顔をのぞかせていた。
そこに、男たちに怯えていた少女の面影は見られない。
ついこの間まで、誰がこんなクリスマスを迎えていると想像できたであろうか。
亜美が作った料理のそのほとんどをたいらげた男たち。
ひとしきり腹が満たされ、休憩をとる。
いつになく平和な武田家の食卓。
しかし、誰よりも亜美自身が、この夜がこのまま終わるなどとは──思っていなかった。

