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セイドレイ【完結】
第37章 零落

「あっ………ああ………」
雅彦は思わず言葉に詰まり、息を飲んだ。
今、目の前に亜美がいる。
約半年ぶりに、実際にその姿を目にした。
「……お久しぶりです。お父様……お元気でしたか?」
小さな声だが、しかしはっきりとした口調で亜美は雅彦にそう問いかける。
「あっ…ああっ……亜美…なのか?本当に…本当に……」
季節は梅雨も明けた6月下旬。
この日、武田家の地下室には、久々に人の姿があった。
外は蒸し暑い夜だったが、この地下室はひんやりとして涼しい。
テーブルを挟んで、雅彦、健一、慎二の3人がソファに腰掛けている。
その対面に、同じくソファに腰掛ける3人ーー。
亜美を真ん中にして、両脇を囲むように、新堂と酒井が座る。
雅彦達と酒井は初対面であった。
先に話を切り出したのは、新堂だった。
「…やぁ。ご無沙汰しておったねぇ。遅くなってしまったが、『やっと亜美が見つかった』のでね。今日は久々のご対面とやらだ。私も嬉しいよ。積もる話もあるだろう、後でじっくり聞いてやってくれ。…あ、申し遅れたが、この方は酒井くんと言ってね…」
「…初めまして。ご紹介に預かりました酒井です。よろしくお願いします」
簡単な自己紹介をする酒井のことを、雅彦達3人は怪訝な表情で見つめる。
「彼は…酒井くんは警視庁公安部でねぇ。今回の亜美の捜索に尽力してくれた一番の立役者だよ。お前達、酒井くんにはもう足を向けて寝られんなぁ…はは、冗談だよ。そんな怖い顔するな、雅彦よ」
冗談に聞こえないのが恐ろしい。
そもそも、こんなやり取りに何の意味がある?
と、雅彦は太ももの上に置いた拳を握りしめた。
『亜美が見つかった』
白々しいにも程がある。
しかし雅彦は怒りに震えながらも、新堂のそんな戯言に付き合うしか無かった。
今日、新堂が亜美を連れてここへやって来た理由を雅彦だけは知っていた。
つい2日前、新堂から電話があったからだ。
新堂はその電話で、亜美を武田家に連れ帰る条件を提示した。
そして今、約半年ぶりに、亜美が武田家の門をくぐったのだ。
「…亜美、お前はあちらのベッドで少し休んでいなさい。『身重の身体』に響くだろう」
「……はい。分かりました」
新堂は亜美をベッドで休むよう促す。
そんな亜美の腹は、誰がどう見ても…子を宿していたのだった。
雅彦は思わず言葉に詰まり、息を飲んだ。
今、目の前に亜美がいる。
約半年ぶりに、実際にその姿を目にした。
「……お久しぶりです。お父様……お元気でしたか?」
小さな声だが、しかしはっきりとした口調で亜美は雅彦にそう問いかける。
「あっ…ああっ……亜美…なのか?本当に…本当に……」
季節は梅雨も明けた6月下旬。
この日、武田家の地下室には、久々に人の姿があった。
外は蒸し暑い夜だったが、この地下室はひんやりとして涼しい。
テーブルを挟んで、雅彦、健一、慎二の3人がソファに腰掛けている。
その対面に、同じくソファに腰掛ける3人ーー。
亜美を真ん中にして、両脇を囲むように、新堂と酒井が座る。
雅彦達と酒井は初対面であった。
先に話を切り出したのは、新堂だった。
「…やぁ。ご無沙汰しておったねぇ。遅くなってしまったが、『やっと亜美が見つかった』のでね。今日は久々のご対面とやらだ。私も嬉しいよ。積もる話もあるだろう、後でじっくり聞いてやってくれ。…あ、申し遅れたが、この方は酒井くんと言ってね…」
「…初めまして。ご紹介に預かりました酒井です。よろしくお願いします」
簡単な自己紹介をする酒井のことを、雅彦達3人は怪訝な表情で見つめる。
「彼は…酒井くんは警視庁公安部でねぇ。今回の亜美の捜索に尽力してくれた一番の立役者だよ。お前達、酒井くんにはもう足を向けて寝られんなぁ…はは、冗談だよ。そんな怖い顔するな、雅彦よ」
冗談に聞こえないのが恐ろしい。
そもそも、こんなやり取りに何の意味がある?
と、雅彦は太ももの上に置いた拳を握りしめた。
『亜美が見つかった』
白々しいにも程がある。
しかし雅彦は怒りに震えながらも、新堂のそんな戯言に付き合うしか無かった。
今日、新堂が亜美を連れてここへやって来た理由を雅彦だけは知っていた。
つい2日前、新堂から電話があったからだ。
新堂はその電話で、亜美を武田家に連れ帰る条件を提示した。
そして今、約半年ぶりに、亜美が武田家の門をくぐったのだ。
「…亜美、お前はあちらのベッドで少し休んでいなさい。『身重の身体』に響くだろう」
「……はい。分かりました」
新堂は亜美をベッドで休むよう促す。
そんな亜美の腹は、誰がどう見ても…子を宿していたのだった。

