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セイドレイ【完結】
第53章 落日
「...助かります。私、お酒はそんなに強くないので飲まなくても良かったんですけど...お言葉に甘えさせていただきます」

「いいのよ、そんなにかしこまらなくて。もう今は業務時間外なんだし。それに、市川さんみたいな若くて可愛い子が男衆のお酌の相手してくれると助かるわ~。その方があいつらも嬉しいだろうし。いいわよね~若いって」

「は、はぁ.....」

安藤の言葉には、どこか棘がある。
初日から亜美はそう感じていた。

「...でも市川さん、その歳でもう小学生の息子さん、しかも双子が居るなんて色々大変だったでしょう?私が市川さんくらいの歳の頃は毎日遊びほうけてたから。旦那さん、結構歳上なんですって?」

「え、ええ...。15、離れてます...」

「へぇ~。よくご両親、反対しなかったわね。男って幾つになっても、若い子がいいのよねぇ。うちの社長だって結局そうだし...」

「...社長?社長がどうか...されたんですか?」

「...え?あ、そっかそっか~。そりゃ市川さんは知らないわよね。実はね、市川さんが応募してくるほんの少し前に、もう一人面接した人が居たのよ。その時は私も立ち合ったんだけど、確か35歳だったかしら。資格も経歴も申し分ない、感じの良い女性でね。私としてはその子で決まりかな~と思ってたんだけど、急に社長がもう一人応募が来たから面接する、って言い出して。それが市川さん、あなたなのよ」

「そ、そうだったんですか...」

「そうよ。でね、社長は福祉のこと全然知らない人だから、通常は私が必ず採用面接に同席するんだけど、市川さんの時だけ何故だか『儂一人でやるからいい』とか言い出してさ。そしたらあっという間にあなたに決まっちゃった。どうして経験者を差し置いて、未経験のあなたを採用したのかしら~って不思議に思ったんだけど、あなたの姿を見たら納得しちゃったわ~。所詮、社長もただの男ってことなんだ~って」

返す言葉が見つからないと、亜美は思った。

「あ、ごめんごめん。別に、あなたを責めてるわけじゃないのよ?ただ、普段は仕事に関して一切口出ししない社長が、あなたのことは物凄く推してたのが変だな~って言うだけの話。もしかして愛人なんじゃないか?って噂になってたりして...」

「そっ、そんなっ...!?」

「あらあら。冗談よ、冗談。いちいち本気にしなくていいから」
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