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エメラルドの鎮魂歌
第5章 青い鳥の唄
「…やっぱりあんたと俺とは違う。
俺は…あの篠宮伯爵夫人に母を殺された。
…そりゃあ、他人の旦那を奪った母は悪かったのかもしれない。けれど、殺されるほど悪いことはしてはいない。
…俺は、まだ六歳だったけど、あの時の光景は今でも目に焼き付いている。
…俺を連れ去ろうとした夫人の手先に、母は必死で抵抗し…そして、殺された…。
死にかけながら、母は言った。
…早く逃げて…そして生き延びて…て…。
一生忘れない…。そして、許せない…!」
壁にそのまだ幼さが残る手を叩きつける。
白い拳は震えていた。
憎しみと怒りと悲しみが篭った動作だった。
青山は、その手に大きな逞しい手を重ねた。
…それは、優しさだけの動作であった。
「うん。一生忘れなくていい。許さなくてもいい。
…けれど、君は君の人生を謳歌するんだ」
藍の瞳が訝しげに細められる。
「え…?」
重ねられた手が、柔らかく握り締められる。
「…人生を楽しみ、人を愛する。
憎む感情より愛する感情を大切にするんだ。
…たとえばこの絵のように」
描き掛けの郁未のキャンバスを視線で指し示した。
初夏の明るい陽光に照らされた郁未は、温かな色を帯びていた。
「そうしたら、君の人生は更に豊かに輝き出す。
…私はその手伝いをしたいんだ」
俺は…あの篠宮伯爵夫人に母を殺された。
…そりゃあ、他人の旦那を奪った母は悪かったのかもしれない。けれど、殺されるほど悪いことはしてはいない。
…俺は、まだ六歳だったけど、あの時の光景は今でも目に焼き付いている。
…俺を連れ去ろうとした夫人の手先に、母は必死で抵抗し…そして、殺された…。
死にかけながら、母は言った。
…早く逃げて…そして生き延びて…て…。
一生忘れない…。そして、許せない…!」
壁にそのまだ幼さが残る手を叩きつける。
白い拳は震えていた。
憎しみと怒りと悲しみが篭った動作だった。
青山は、その手に大きな逞しい手を重ねた。
…それは、優しさだけの動作であった。
「うん。一生忘れなくていい。許さなくてもいい。
…けれど、君は君の人生を謳歌するんだ」
藍の瞳が訝しげに細められる。
「え…?」
重ねられた手が、柔らかく握り締められる。
「…人生を楽しみ、人を愛する。
憎む感情より愛する感情を大切にするんだ。
…たとえばこの絵のように」
描き掛けの郁未のキャンバスを視線で指し示した。
初夏の明るい陽光に照らされた郁未は、温かな色を帯びていた。
「そうしたら、君の人生は更に豊かに輝き出す。
…私はその手伝いをしたいんだ」