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エメラルドの鎮魂歌
第7章 木漏れ日の道
晩餐が済み入浴を終え、藍は与えられたゲストルームの寝台に横たわり、悶々と考えていた。
…なぜ、瑞葉はあんなに動揺していたのだろうか。
そりゃ、生まれた時から片時も離れずに世話してくれる執事と別れることになったら、寂しいかも知れないけどさ…。
瑞葉だってもう十八なんだから、いずれは一人立ちすることになるじゃないか。
執事は別にあの男じゃなくたって…。

晩餐の瑞葉は沈み込み、藍が話しかけても上の空の様子だった。
…八雲の機嫌を損ねたことを、気に病んでいるのかな…。
だったら、慰めて来なくちゃ…。

…そういえば…と、藍はあることを思い出した。

晩餐が済み部屋で本を読んでいると、入浴の支度を手伝いに来た八雲に告げられたことを…。

「瑞葉様が、藍様にお話があるそうです。
11時になりましたら、お部屋に来て欲しいとのことです」
「瑞葉が?…分かった」
…珍しいな…と藍は少し驚いた。
瑞葉に呼び出されたのは、初めてだったからだ。

隙のない流れるような動作で入浴準備を整え、部屋を辞そうとする八雲を思わず呼び止める。
「あのさ、八雲さん。
…昼間のこと、気を悪くした?」
八雲は深い瑠璃色の瞳を細めて、穏やかに首を振った。
「いいえ、藍様。瑞葉様がお選びになるのならば、私はそのご意思を尊重いたします。
…すべては、瑞葉様次第なのです」

近寄りがたいほどの怜悧な美貌の執事はそう答えると、そのまま部屋を後にした。


…瑞葉に会いにいこう。
もう一度、パリ行きの話を進めてみよう。
瑞葉を説得しなくちゃ…。
藍は寝台から勢いよく起き上がった。




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