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エメラルドの鎮魂歌
第12章 エメラルドの鎮魂歌 〜瑠璃色に睡る〜
…瑞葉の声が聞こえたような気がして、八雲は振り返った。

…けれど辺りはしんと静まり返り、静寂が支配するのみであった。
八雲はふっと自嘲する。
…瑞葉様なはずがないのに…。

八雲は、主のいない瑞葉の部屋を見渡す。

…この部屋とも、もうお別れだ…。
青山には来月と言ったが、バロンを瑞葉に返した今、ここに留まる理由もない。
あと数刻で屋敷を出るつもりでいた。

…部屋の中を、瑞葉の面影を辿るように家具に触れながら歩き続ける。

紗幕の掛かった寝台…。
幾度激しく愛し合ったか分からないその愛の褥からは、微かに伽羅の薫りが漂った。

…瑞葉様…。
かの人を喪ってから、この寝台は八雲にとって棺のようであった。
…愛の想い出だけが、この胸に蘇る。

しかし、その想い出も最後に見た瑞葉の貌により、暗い闇色に一変するのだ。

…世にも恐ろしいものを見るような表情であった…。
穢れた…忌むべきものを見るような憎悪の眼差し…。

…瑞葉様…。
悔やんでも悔やみきれない…。
誰よりも愛している人を絶望の淵へと突き落としてしまったのだ。
…私は…!

思わず目を閉じ、息を吐く。

…一刻も早くここを去らなくては…。
これ以上、瑞葉の面影を辿るのに耐えきれず、踵を返す。



…と、扉の前に眼を遣った刹那…八雲の全身が一瞬にして凍りついた。

…とても現実とは思えなかった。
私は…夢を見ているのではないか…。

震える唇を開いてその名を呼ぶ。
…もう二度と呼びかけることはないと、諦めていたその名前を…。


「…瑞葉様…!」


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