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エメラルドの鎮魂歌
第14章 海に睡るエメラルド 〜エメラルドの鎮魂歌 SS 〜
夜着にガウンを羽織り、八雲に手を引かれ、夜の甲板に出る。
潮風が貌を撫で、静かだが壮大な潮騒が瑞葉の全身を押し包んだ。
「…ああ…これが…海…!」
初めて見た海であった。
漆黒の闇をそのまま映したような大海原が眼下に広がっていた…。
墨を流したような夜空には、数限りない星がきらきらと瞬いていた。

八雲が瑞葉の肩を抱く。
温かな男の温もりに包まれながら、暫し言葉を忘れ空と海を見つめた。

「…和葉は、この広い海のどこかに睡っているんだね…」
「…はい…」
八雲に強く抱き寄せられる。

…遺品一つ帰っては来なかった和葉…。
美しく優しく凛とした弟は、この海を柩に永遠の睡りについているのだ…。
不意に和葉の温かな吐息のような風がふわりと吹いた。
…和葉の優しい手に触れられたかのように、瑞葉の蜂蜜色の髪が微かに靡く。

…和葉は…ここにいるんだね…。
無数の星の煌めき、瑞葉に優しく纏わりつく潮風、海の細かな波飛沫…そして海に睡る真珠に…。
全てに和葉は宿っているのだ…。
…だからもう、寂しくはない…。
瑞葉は甲板から海に向け、柔らかな微笑みを送った。


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