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エメラルドの鎮魂歌
第2章 その薔薇の秘密は誰も知らない
「お母様は悪くないよ。お祖母様はお母様に厳しすぎるよ」
抗議する息子を千賀子は慌てて止める。
「和葉さん、良いのですよ。
…お母様が至らないのですから…」
薫子は冷ややかな貌でナプキンを置くと、席を立った。
「当然です。千賀子さんは次期伯爵夫人ですよ。
いつまでも庶民の金満家の娘気分でいらしたら困ります。
…八雲、午後から高倉子爵家のお茶会に出かけます。運転手に車を回すように伝えて」
八雲は椅子を引きながら黙礼する。
「かしこまりました。大奥様」
征一郎が急いで薫子の後を追う。
扉の入り口で千賀子を振り返り、冷たく言い放つ。
「今日のお茶会は千賀子さんもいらして。
高倉の大叔母様にきちんとご挨拶なさってね。
…ああ、それから…先日の宮様のお茶会の時のように軽薄なドレスではいらっしゃらないように、くれぐれもお気をつけになって。
私の貌に泥を塗るような真似はなさらないでちょうだい」
千賀子は立ち上がり、頭を下げる。
「はい。お義母様。申し訳ありません」
征一郎は見て見ぬ振りだ。
薫子と征一郎の足音が遠ざかると、和葉は母親の手を握りしめ慰める。
「お母様、気にしてはだめだよ。お祖母様はどうしてあんなにお母様に意地悪なのかな」
千賀子は寂しげに微笑む。
「…私がお馬鹿さんだからよ」
「そんな…!お母様ももっと堂々となさっていたらいいのに!」
不満そうに口を尖らす和葉に、八雲は淡々と促す。
「和葉様、そろそろお支度をなさいませんと学校に遅れます」
「わかったよ。…八雲、お母様を頼むね」
「かしこまりました。和葉様」
和葉は小さいながら、気配りができる子どもだ。
母親が頼りなげで、薫子に叱責された後に大変落ち込むのをわかっているのだ。
和葉が扉の向こうに姿を消したのち、八雲は千賀子に声を掛けた。
「奥様、大丈夫ですか?」
千賀子は少し赤らんだ目尻を抑えながら寂しげに微笑んだ。
「慣れているわ。お義母様に叱られることなんて…。
…それより…瑞葉さんはお元気かしら?
今日こそお貌を見に伺うつもりだったのだけれど…お茶会のドレスを選ばなくてはならないから…」
申し訳なさげに口篭る千賀子の肩に八雲はそっと手を置く。
華奢な肩が小さく震えた。
八雲は無表情に告げる。
「ご心配なさらずに。瑞葉様のことは私にすべてお任せくださいませ。奥様がお気になさることは何もございません」
抗議する息子を千賀子は慌てて止める。
「和葉さん、良いのですよ。
…お母様が至らないのですから…」
薫子は冷ややかな貌でナプキンを置くと、席を立った。
「当然です。千賀子さんは次期伯爵夫人ですよ。
いつまでも庶民の金満家の娘気分でいらしたら困ります。
…八雲、午後から高倉子爵家のお茶会に出かけます。運転手に車を回すように伝えて」
八雲は椅子を引きながら黙礼する。
「かしこまりました。大奥様」
征一郎が急いで薫子の後を追う。
扉の入り口で千賀子を振り返り、冷たく言い放つ。
「今日のお茶会は千賀子さんもいらして。
高倉の大叔母様にきちんとご挨拶なさってね。
…ああ、それから…先日の宮様のお茶会の時のように軽薄なドレスではいらっしゃらないように、くれぐれもお気をつけになって。
私の貌に泥を塗るような真似はなさらないでちょうだい」
千賀子は立ち上がり、頭を下げる。
「はい。お義母様。申し訳ありません」
征一郎は見て見ぬ振りだ。
薫子と征一郎の足音が遠ざかると、和葉は母親の手を握りしめ慰める。
「お母様、気にしてはだめだよ。お祖母様はどうしてあんなにお母様に意地悪なのかな」
千賀子は寂しげに微笑む。
「…私がお馬鹿さんだからよ」
「そんな…!お母様ももっと堂々となさっていたらいいのに!」
不満そうに口を尖らす和葉に、八雲は淡々と促す。
「和葉様、そろそろお支度をなさいませんと学校に遅れます」
「わかったよ。…八雲、お母様を頼むね」
「かしこまりました。和葉様」
和葉は小さいながら、気配りができる子どもだ。
母親が頼りなげで、薫子に叱責された後に大変落ち込むのをわかっているのだ。
和葉が扉の向こうに姿を消したのち、八雲は千賀子に声を掛けた。
「奥様、大丈夫ですか?」
千賀子は少し赤らんだ目尻を抑えながら寂しげに微笑んだ。
「慣れているわ。お義母様に叱られることなんて…。
…それより…瑞葉さんはお元気かしら?
今日こそお貌を見に伺うつもりだったのだけれど…お茶会のドレスを選ばなくてはならないから…」
申し訳なさげに口篭る千賀子の肩に八雲はそっと手を置く。
華奢な肩が小さく震えた。
八雲は無表情に告げる。
「ご心配なさらずに。瑞葉様のことは私にすべてお任せくださいませ。奥様がお気になさることは何もございません」