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エメラルドの鎮魂歌
第3章 禁断の愛の果実
「八雲、あとで僕の部屋に来てくれ…」
学院から帰宅した和葉が、出迎えた八雲にそう告げた。
「畏まりました」
大階段を闊達に昇ってゆく姿勢の良いうしろ姿を、八雲は冷めた視線で見送る。

…和葉は、もうまもなく十五歳になる。
黒のテイルコートジャケットにスラックス、紺色のレジメンタルタイ…そして、濃紫色のベストを着ているのは、名門 星南学院中等部の中でも文武両道に優秀な選ばれた生徒だけだった。

和葉の琥珀色の艶やかな髪と美しい瞳は相変わらずだが、その色は更に深みを増していた。
背丈もすらりと伸び、歳の頃にしては長身で既に瑞葉を追い越していた。
スポーツ全般に得意な和葉は、細身だが美しい筋肉が付いたしなやかな身体つきをしている。
貌立ちも瑞葉のように隠花植物めいた儚げな美貌ではなく、明るく華やかな人好きのする美貌であった。
兄弟だが、瑞葉とは似たところはひとつもない…。
それ故に祖母の薫子に溺愛されているのだった。

「我が家の長男の和葉です」
「篠宮伯爵家の後継者の孫です」
などと当然のように紹介する薫子に、八雲はその都度嫌悪感を募らせてしまう。
生まれてこの方ずっと幽閉同然の扱いをされているのだから仕方ないことではあるが、本来の長男で後継者は瑞葉なのだ。

それを異色の容姿と病弱なことを理由に、まるで存在しないかのような振る舞いをする薫子には反感を持ってしまうことは否めない。

…そして、和葉にも…。
彼に罪はないとわかってはいるが、生まれた瞬間から薫子に無条件に愛され丁重に扱われ育てられてきた和葉を…。
八雲はどうしても愛することが出来ないのだ。


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