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エメラルドの鎮魂歌
第3章 禁断の愛の果実
「…お黙りなさい!そんな…根も葉もないことを…!」
薫子の叫び声にはもはや八雲に対する恐怖の色さえ滲んでいた。
「根拠はあります。
…なぜなら、その少年の行方を私は把握しているからです」
「…え⁈な、何ですって⁈」
思わず本音の言葉が溢れ落ち、薫子ははっと息を飲む。

八雲はゆっくりと歩を詰める。
「…私はその少年の消息を把握しています。
つまり、貴女の凶行の一部始終を見知っている証人から全てを聞いているのです」

薫子は長い間、八雲をその切れ長の瞳で睨みつけ…怒りと恐れを押し殺した声で問いかけた。
「…私を嚇す気なの?」
「とんでもございません。そのようなやくざなことを私はいたしません。
…大奥様、私と取引をなさいませんか?」
「取引?」
薫子の頬がぴくりと動いた。
「はい。…大奥様は、かの少年をなぜ執拗に消そうとしたのか…。
それはいずれ彼が篠宮伯爵家の血筋のものとして財産分与を要求することを危惧されたのでしょう。
だから貴女は後継者擁立を急がれた。
病弱な瑞葉様を廃嫡にして、和葉様を後継者に指名された。
急がないと、和葉様と同い年のその落とし胤が現れないとも限らない。
貴女の凶行を暴かないとも限らない。
だから強硬に瑞葉様を排除されたのです。
その落とし胤は、つまり貴女のアキレスの踵です。
貴女にとっては運悪く生き延び、行方の杳として知れないその少年は不吉の種…」

未だ尚やり止まない春雷の稲光の中、八雲はゆっくりと歩き回る。
「それで?…私にどうしろと?」
憎しみの篭った口調で低く尋ねる。
深い瑠璃色の瞳が振り返り、にこりと笑いかける。
「私の要求は、私を瑞葉様付きの執事にしていただくこと、瑞葉様の生涯の潤沢な生活費と使用人の保障と…そして、今後も瑞葉様が篠宮伯爵家の令息であることを名乗る権利です。
それらをご承諾くだされば、私は今まで申し上げた貴女の秘密の数々を一切漏らしません。
…どうですか?いとも容易い取引ではありませんか?」
ワルツを申し込むような甘い眼差しで、八雲は薫子を覗き込んだ。
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