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約束 ~禁断の恋人~
第2章  決意


「うん。分かった」
 すぐに順応出来るのも、彼が“Z”だから。
 戸惑いなど無い。
 目を覚ました時が、彼が“Z”として生まれた瞬間。
 腕から点滴の針を抜き、海から受け取った酸素カップをベッドへ置く。正常な数値だと確認してから、腕のベルトも剥がした。
 何も異常は無い。触った感じでは発熱も無いし、呼吸も平常通り。
 普通の人間と同じ数値。
 何もかも変わらない。
 見た目も、声も。
 それなのに、心だけが違う。
「立てる……?」
 頷いてベッドから降りると、海は僕の前に姿勢良く立った。
 “Z”は、自分が研究材料だと認識している。その上感情が無いから、逆らおうとせず次の指示を待っているだけ。
「痛む所は無い?」
「頭が痛い」
「それは仕方ないんだ。二,三日で治まるから、我慢して」
 頷くと、彼はみぞおちに手を当てて僕をじっと見る。
「後、この辺も痛い」
「痛い……?」
 すぐに腹の鳴る音がして、安心した。何か、手術にミスがあったのかと思ってしまったせい。
「お腹が空いてるんだね」
 今の海には、妙な感覚を全て“痛い”と表現するしか出来ないのだろう。
 全ての感覚はインプットされているが、感情と併せて適切に表現する能力は無い。それも、目覚めたばかりの彼なら尚更だ。
 僕も海が作ってくれた朝食以来、何も食べていない。
「先に、着替えようか」
 病院から手術着だった彼を、ゆっくりと海の部屋へ連れて行った。
 大きな窓のカーテンは開けてあり、彼が出勤した朝と同じ快晴。
 天気は国によって計画的に決められ、通常は週に一度は雨。梅雨や雪もある。それは希少な自然栽培をする経営者への配慮と、子供達への学習のため。
 遥か昔は“天気予報”というものがあったらしいが、現在では正確な天気が月ごとに政府から発表されている。
 それも科学の発達のお蔭。
 綺麗好きな海の部屋は、いつもきちんと整頓されている。
 海のベッドの枕元には、いつも読んでいたバイク雑誌が数冊あった。



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