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わがままな氷上の貴公子
第2章 プライド

月曜に五階で個人練習していると、またコーチに一度四階へ行くように言われる。そこには、中学生以上の全メンバー。
それ以下は、三階に集まっているんだろう。
発表会についての話があり、プリントと無料指定席のチケットが配られた。
チケットは三枚。家族用だが、入会テストの日付けなども書いてある。言えば五枚までもらえ、入会者を増やせという意味。
プリントを手にしたヤツらが、チラチラとオレを見ていた。目が合うと、気まずそうに視線を逸らす。
「プリントにある通り、今年のトリは、女子は園田千絵。男子は桜井圭太にやってもらう」
主任コーチの言葉に、耳を疑った。
周りも、コソコソと話し始める。それぞれが小声でも、人数が多いとリンクに響くよう。
ここではいつもオレの名前が呼ばれて、全員が大きな拍手をする。それが決まりだったのに。
今年は気を遣っているのか拍手も疎らで、みんながオレの表情に気付いている。
オレより圭太の方が、トリに相応しいっていうのか?
シニアに上がったばかりの圭太の方が、オレより格上だっていうのか?
解散の声に、ゆっくりとリンクサイドへ行った。
「望月さん……」
近寄ってきた圭太の声は聞こえたが、無視してリンクから上がった。
どんな顔をして圭太と話せばいいのか、今のオレには分からない。
「望月!」
ロッカールームへ行こうとすると、前季からの副コーチの赤坂(あかさか)に腕を掴まれる。
「ちょっと待て」
腕を引かれ、隅のベンチへ座らせられた。
赤坂は殆ど四階にいて、個人練習にはたまに顔を出すくらい。
「お前いつも、発表会なんてくだらないって言ってただろう?」
帰るヤツらに聞こえないよう、声を潜めるのにもムカつく。
「お前には、シリーズで頑張って欲しいんだよ」
オレは、いつも両立させていたじゃないか!
リンクに立つからには、手を抜かない。
「もっと、考えることもあるだろう?」
だからなんだよっ!
事を誤魔化すような言葉に、また腹が立つ。
「お前は、技術も表現力も申し分ない。後は体力。持久力だ」
持久力が無いから、基礎点が1.1倍になる所に大技が入れられない。そのせいで、得点も伸びないまま。

