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わがままな氷上の貴公子
第10章  意地


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「プログラム内容が変わりましたが、あれは急な変更ですか?」
 司会者に訊かれ、笑顔を見せる。
「はい。数日前から、調子が上がって来てて。二種類用意したんですけど、直前に、難度の高い方に決めました」
 オレのこの笑顔で、多くのファンが感激の悲鳴を上げるだろう。
 今日の主役は、金メダルのオレ。本堂は二番手だ。九十九はいない。
 気分は良かったが、本番が終わると疲れる。
 控室で休む間もなく、次のテレビ局へ。
 移動の車の中でゼリー飲料を口にしながら、今朝観たジャンプの順番をメモしていく。合間のエレメンツも書き、頭の中で滑っていた。
 いくつかのテレビ出演や取材が終わり、やっとリンクへ。
 やはり、氷の上が一番いい。
 昨日の表彰式では、一番高い場所。
 エキシビションでは、客席ギリギリを何度も滑った。大会とは違うから、その度に黄色い歓声が上がる。
「望月。最近益々、表情が艶っぽくなったな」
 バックステージで鈴鹿に言われて、内心ドキリとした。
 まさか……。
 それも潤のせいか?
 楽なエキシビションだから、つい潤のことを考えてしまった。別にセックスじゃなくて、オレが忙しくて淋しがるかと思っただけ。
 あいつは、和子さんの食事を食べに来るだろう。後一つ取材を終えたら、オレは家に帰る。
 帰りのタクシーの中、ついウトウトしてしまった。
 運転手には住所を告げてあったから、車が止まって目が覚める。
 ロックを開けて玄関へ入ると、ドタドタと潤の出迎え。
 オレも、このペースに慣れてしまった。
「悠ちゃん、お帰り。録画、全部観たよお」
「ん……。ただいま……」
「お帰りなさい。悠斗さん」
 和子さんに促されて、着替えの後は食事。
 テーブルに載った殆どを、潤が食べるが。
 潤の出入りと大喰いは、母親も公認になってしまった。
 息子も喰われてるけどな……。
 食後の紅茶を出すと、いつものように和子さんは帰って行く。潤が来るようになってから、その時間が少しだけ早くなった気がする。
「悠ちゃんも観る? 悠ちゃんが出た番組」
「いいよ」
 確かめるのは、滑りだけでいい。


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