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わがままな氷上の貴公子
第11章  決意



 長く感じた合宿も終わり、フリーの本番当日。
 外にいた取材陣には笑顔を見せつつも、控室で溜息をついた。
 溜息といっても、決して諦めのものじゃない。
 これから始まる、決戦への決意。
 ショートプログラムは、本堂に次いで二位。三位の九十九とはかなりの点差があっても、フリープログラムで化ける可能性もある。
 いつもならフリーに苦手意識を持っていたが、今はそんなこともない。
 練習はしっかり熟してきた。
 合宿中は毎晩潤と少しだけ電話で話し、力ももらった。
 そして客席には潤と和子さんがいる。塔子も来てくれた。
 千絵は昨日二位で大会を終えたから、オリンピックは確定。
 見送る立場にはなりたくない。
「望月。お前なら大丈夫だ。自信を持って滑ればいい」
 鈴鹿の言葉に、しっかりと頷いた。
 自信はある。
 あそこでミスをしなければ……。
 問題なのは、ラストの4回転サルコウと3ループのコンビネーション。
 4回転を増やしたせいで、そこまで体力が持つかどうか。練習でも、何度かミスをしていた。
 その前に跳ぶのは3トウループだから、回転不足になっても演技としては成立する。
 先へ進めるのは、二人まで。オレは今、その二番目だ。
 最低でも、その位置をキープしなければならない。
 珍しく緊張していた。
 潤……。
 頭に浮かんだのは、あいつのニコニコ顔。
 潤を出場選手の家族として、北京へ連れて行きたい。そう考えることは、プレッシャーにはならなかった。
 椅子の背に体を預け、上を向いて目を瞑る。
 もっと、潤のことを考えればいい。出会ってから今まで、色々とあった。思い出すと、笑いそうになる。
 大丈夫だ。
 オレなら出来る。
 緊張に負けるほど、弱くない。スケートについては。
 スケート靴の紐を結び直し、廊下へ出た。
 そこには、九十九の姿。
 こいつに勝たなければ、オレのオリンピックシーズンはここで終わりになる可能性もある。
 絶対に負けない。
 滑る前のバックステージで、選手同士は殆ど話しをしない。無視というわけじゃないが、みんなヘッドフォンをしている。オレだって。
 本当の敵は、自分自身。
 弱さがあれば転倒する。


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