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わがままな氷上の貴公子
第12章  開宴


 どんなことでも、賞に辿り着くまでは大変だろう。それは身に染みている。
「どんなの描いてるの? 今度見せてよー」
「少女漫画……。悠斗くんを、モデルにしたから……」
「はあ?」
 少女漫画でオレがモデルなら、そりゃあ美少年だろうな。
「後、潤くんも……」
 やめてくれ……。
 母親が聞いてるし、和子さんは笑いを堪えてる……。
「昔やってたから、フィギュアものが描きたくて……。だから、リンクまで取材に行ってたの。潤くんは男の子で、悠斗くはその恋人の、女の子のモデルなんだけど……」
 さぞや美少女だろうなっ!
 女のオレと男の潤の少女漫画か……。
 調理をしている和子さんの後ろ姿が、小刻みに震えている。
 真実を知っていれば、笑いたくもなるだろう。
「もう、いいでしょう? 今日の主役は、千絵と悠斗くんなんだから……」
 塔子は顔を紅くしていた。
「三人とも主役じゃないの」
「やっぱり俺だけ、何にもしてない……」
 潤の言葉にみんなで笑う。
「潤くんも、お手伝いしたんでしょう? 立派な主役よ」
 母親に元気付けられると、潤はニコニコ顔になる。
 単純なヤツだ……。
「ねえ。塔子ちゃんも一緒に、北京へ行かない?」
「え……」
「旅費やホテルなんて、気にしなくていいのよ。勿論潤くんもね。和子さん、よろしくね」
「はい。奥様」
 ママ。太っ腹だな……。
 これでここにいる全員の、北京オリンピック観戦ツアーが決まったようだ。
 一通り食事が済むと、デザートやお茶にしようとリビングへ移った。
 潤用の、大量の食べ物はあるけどな……。
 時間になって母親は帰り、戻れるのはまた数か月後。
 初めて、淋しいと感じた。
 でも、哀しくはない。どこにいてもオレを思っていてくれるはずだから。
 残ったみんなで、大会のVTRを観始めた。
「悠斗。ちょっといい?」
 小声で千絵に言われ、トイレへ行くと言って時間差でオレの部屋へ行く。
「どうしたんだよ」
「ん……」
 元気がないのとは少し違った。
 今更告白でもないだろう。
「私……。オリンピックが終わったら、引退、するから……」
 千絵はまだ17歳だから、引退する年齢じゃない。怪我なども特に聞いていないし。
「何でだよ……」
 ソファーに向かい合って座り、千絵を見つめた。


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