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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第3章 たもつ
まだ歩けそうもない岬ちゃんを、おんぶして歩いた。そうしてアパートまで帰る道中で、彼女はいつの間にか意識を遠のかせていった。
暫くベッドから僕を見つめていた彼女は、なぜか急に頭から布団を被っている。
「岬ちゃん、どこか痛いの?」
店で倒れた時、どこか打ちつけていないかと心配した。だけど、布団で顔を隠したのは、そういった意図ではないみたい。
「やっぱり……謝るのは、わたしの方なんです」
「そ、そんなこと――」
「だって、わたし、均くんに迷惑かけて――誰にもできることなのに、なんにもできなくって」
そう言った岬ちゃんの声が、かすれる。彼女は布団の中で、泣きはじめていた。その様子を暫く見守ってから、僕は言った。
「ねえ、顔をみせて」
「え……?」
涙にぬれた瞳だけ、そっと布団から覗かせる。その髪を指先で撫ぜて、僕は努めて穏やかに微笑みかけた。
「ずっとこうしているから、今夜はこのまま休もう」
「で、でも……」
「気にしないで、安心して眠るといいよ」
「……」
そのまま小さな寝息が漏れるまでの間、僕は岬ちゃんのことを見つめていた。
更に眠りが深まるのを待って、その愛しい夢の中の住人に。
「ねえ――」
僕の今の想いを、静かに告げた。
「岬ちゃんには、きっと――僕が、必要でしょ?」
その投げかけた問いに、答は返ってはこなかったけれど。
もし彼女が本当に必要としてくれるのなら、僕は彼女の特別になれるのに。そんな風に思い。
それが、少しだけ歯がゆかった。