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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第5章 均
食事を終え店を出ると、美里さんの進む方向に合わせ、なんとなく歩き始めた。どこに行くのか聞こうとするが、先に美里さんが口を開いた。
「あのお店、気に入った?」
「はい、とっても。だけど、本当によかったんですか――お金?」
僕は申し訳なさそうに言う。結局、食事代はすべて美里さんのおごり。せめて割り勘にしようと言ったのだけど、それを聞き入れてはもらえなかった。
「いいの、いいの。こっちが誘ったんだし、一応はお姉さんだしー」
美里さんはそう言って、楽しそうにけたけたと笑う。どうやら程よくアルコールも回り、とても機嫌がよさそうだ。
「じゃあ、今日はご馳走さまということで。もしよかったら、次は僕にご馳走させてください」
コンビニのバイト風情が「ご馳走する」だなんて、口幅ったいと思われるだろうか。ふと抱いたそんな不安を、美里さんは笑顔ひとつで吹き飛ばすのだった。
「うん。楽しみにしてるね」
魅力の塊のような存在を前にして、急に僕はその隣を歩くことに緊張を覚えてしまう。
「あ、あの……」
「なぁに?」
「僕そろそろ、帰ろうかなって」
そう言った瞬間、我ながらなにを言ってるんだ、と呆れる。美里さんは楽しげにしていて、この後もまだ一緒に過ごそうとしているのかもしれないのに……。
それでも、やっぱり僕は臆病だから。妙な期待を膨らませて、それがしぼんだ時の寂しさを、先回りして刈り取りたいのだった。
僕の人生なんて所詮は期待しすぎて、それが満たされたことなどないのだから。
美里さんは真顔で少し唇を尖らせた。
「ふーん、帰るのかー」
と、不服そうに言う。そして徐に僕に背を向けると、交差点の先に見える高い建物を指さした。
「あれ、わたしの住むマンションなんだけど」
「え?」
呆然としたまま、立派な建物を仰ぐ僕に。
「本当に、帰っちゃう?」
美里さんは甘えたように、そう訊ねた。