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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第10章 私
ここに至るまでの、様々な経緯は、まるでしらない。
だから、なにを起点にして、どれくらい後であるのかも、しらない。
そんな私の目に映った光景(こと)と、それと関連するかはしらないが、いくつかの事実(こと)を語っておこう。
私のいる場所は、とある田舎の、とある待合室である。
私と同じその空間には他に、三十代くらいの女性が二人と、若い男女のカップルの姿が見えた。
女性二人は、それぞれ別にきていて、順番まで時間を潰すためだろう、それぞれスマホをいじったり週刊誌を眺めたりしている。
週刊誌は待合室の片隅にある、ラックに置いているもの。私はふと、その女性が広げた週刊誌の表紙を眺めた。
『FP7浜谷陸也の転落人生! 違法薬物に続き殺傷未遂で現行犯逮捕に至る、その半生とは!?』
私は芸能界にそう興味がある方ではないが、その見出しには、ぴんとくるものがあった。確か一年ほど前に、ワイドショーで連日報じられていた話題だ。
それは確か――浜谷陸也という有名タレントが、一般男性の腹部を包丁で刺して通報に駆けつけた警官に取り押さえられたというもの。
しかも刺した相手の恋人の女性というのが、過去に浜谷当人とスキャンダルを報じられたという元モデルであったということもあって、この件については様々な角度から報じられていたようだった。
私はそんなには興味がなかったので、過去の因縁についてまで語ることはできないが、刺された若い男性が無事だったのは憶えている。
なんでも刺された後も浜谷に食らいつき、警察がくるまで持ち堪えたというのだ。浜谷が狙ったのは元モデルの女性だったというから、文字通り身を挺して守り抜いたということのようである。