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不器用な夫
第5章 愛人
ブライダル…。
確かハコの母親が茅野家の持つホテルでブライダル事業を展開した事で茅野家のホテル経営が飛躍的に伸びたと聞いてはいる。
「古城内にはちょっとした小さな教会があって、そこで挙式が出来るんです。」
ハコが照れたように僕に説明する。
茅野家が展開するブライダル事業のウェディングドレスは有名デザイナーが手掛ける事で知られてる。
古城の教会は中世に本物の王族が戴冠式や結婚式を執り行った実際の場所。
その教会で真っ白なドレスに身を包み豪華な王族気分で花嫁になる。
そして、そのまま新郎とその古城のスィートで初夜を迎える花嫁になりたいと女の子なら誰もが憧れを持つブライダル企画だと思う。
日本ではハコを僕の妻だと正式な公表も出来ずウェディングドレスを着せてやる事すら叶わない。
奇しくも今は6月…。
女の子の憧れであるウェディングを自分の時には出来なかった母がハコの為にやりたいと自分にハコを重ねて僕に強請る。
ハコはただ母のお強請りにニコニコとして笑顔を絶やさない。
夏休みになら…。
そう言ってやるべきかと僕が口を開こうとした瞬間の事だった。
「ダメに決まってるだろ…。」
父の重い声が再び食事の空気を重くする。
「貴方っ!」
母が声を荒げるが父は表情1つ変える事がない。
ハコだけが青ざめた顔へと変化する。
自分の事が原因で姑姑の喧嘩が勃発するとは予想だにしてなかったハコが狼狽えて僕を見る。
「そうですね…。」
父に向かって僕は冷静にそう答える。
「要さん…。」
僕の一言に母は露骨にがっかりした顔をする。
国松家の呪われたしきたりから解放されるチャンスを失ったかのように母が傷心する姿を僕は見ないふりをして父の言葉に従う。