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第1章 prologue

春だと言うのに花冷えのする午後、清瀧柊司は郊外の総合病院へと車を走らせていた。

フロントガラスには白い小さな花弁のようなひとひらがふわりと舞い落ちてきた。

…風花か…。

…桜はもう五分咲きだと言うのに、珍しい…。

白い風花は、あっと言う間に溶けて消えた。
幻かとおもうほど、一瞬のできごとであった。

…その儚い美しさは、柊司にあるひとの面影を浮かび上がらせ…けれど彼はすぐにそれを脳裏から消し去った。

苦笑いしながら、ハンドルを切る。
…馬鹿だな…。
いつまでも思春期の中学生みたいに…。

…風花を見て、感傷的になったのかな…。

…それとも…。

あのひとの面影を宿す妹に会いに行くからかな…。

桜並木を通る頃には、風花ではなく薄紅色の桜の花弁が舞い降りてきた。
厚く覆われていた灰色の雲の隙間から、蜂蜜色の陽の光が射し始める。

…今日は、桜の話をしよう…。

柊司は湧き上がる温かい気持ちのまま、アクセルを踏みしめた。