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幸せの頂点
第2章 栄転

春になる。
朝一番に本店に出勤した。
新しいID。
新しい机。
一番に来たつもりが私の出勤は3番目…。
先に来てる2人は新人の私を見る事はなくパソコン画面を睨んでる。
これが本店のバイヤー…。
他人に構う余裕がないのだと感じた。
私も仕事をしなければと自分のデスクに設置されたパソコンを起動する。
仕事の内容は前の店舗と同じ、食品部での野菜の仕入れが私の担当になってる。
予習として現状の取り扱い商品の全てを本店配属前に記憶した。
後は今の商品よりも優れた物を見出して、この百貨店でしか手に入らないというプレミア商品を作り出さなければならない。
緊張する私の肩が叩かれた。
「新人の阿久津さんだな?」
ぶっきらぼうな声がする。
私が見上げるほどに高い身長の男の人。
広い肩幅に強面な顔の人。
「部長、おはようございます。」
私以外の誰もが彼の顔を見ずに挨拶をする。
「部長さん…。」
「佐伯だ。今の商品情報は確認したか?」
かなり雑な言い方で質問をされる。
「確認はしました。後は売り場を見て…。」
「そんな時間はねえよ。一緒に来い。」
乱暴に腕を掴まれてバックヤードを駆け抜ける。
この人が統括の部長!?
信じられないとか考える。
スマートさの欠片も感じない人。
うちの百貨店でも一番繊細だと言われる食品部で僅か5人だけが選ばれる統括バイヤーを束ねる上司がラグビーでもやってるような厳つい体育会系の男とか有り得ないと私の頭が考える。
バックヤードを抜ける後ろ姿は間違いなくブルトーザーのようだ。
他の売り子や商品搬入に来た業者を跳ね飛ばす勢いで裏口までを駆け抜けた。
「あの…、部長!?」
「黙ってついて来い。」
ビクリと身体が竦んだ。
野太い声…。
野生の虎に吠えられた気持ちになる。

