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幸せの頂点
第2章 栄転
朝の8時…。
「もう…、行くの?」
克が心配そうに私を見る。
「うん…、今日は早番だから…。」
克の心配を払拭する為に克の頬にキスをすれば克が照れた顔をして私を家から送り出す。
百貨店のバイヤー…。
とはいえ、まだ私は駆け出しに近い。
私が仕入れた商品が確実に売れるからと評価は高いが気は抜けない。
自身が店頭に立ち、商品の良さを理解して貰ってこそ初めて商品が売れる。
だから早番の時は無理をしてでも早めに出勤して商品のレイアウトを確認し、自分自身が売り子として店頭に立つようにしてる。
地下にある食品売り場。
その一画にある特設野菜の売り場が私の受け持ち。
無農薬って程度の商品は当たり前の時代。
百貨店で特設とされるレベルの商品を私は探し求めては農家と交渉して仕入れをする。
そのレベルの野菜を作る農家はプライドが高い。
自分達が子供のように育てた野菜に絶対的な自信を持っている。
畑の土が付いたままの生の大根を味見しろと言われた時もあった。
虫喰いされた野菜もそのまま食ってみろと言われる事だって…。
土が美味しいから野菜が美味しくなる。
無農薬だから虫が居るのは当たり前で味が良いものほど虫に傷ものにされるのだと教わった。
味、見栄え、大きさ…。
全てが整ったものを私は選び、仕入れて来た。
他の店舗の3倍の売り上げを記録した。
地方百貨店ではあっても、それだけの商品を扱う店として名を上げる努力を惜しまない。
百貨店の開店時間までに全ての商品の把握をしてエプロンを付けて店頭に立つ。
「いらっしゃいませ。」
開店と同時に押し寄せるお客様に深々と頭を下げる。