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幸せの頂点
第2章 栄転
その全てを私に教えてくれたのは克…。
私がミスをすれば克が穢された気分になる。
「阿久津さん…、来月から本店の統括に移動になるのが決定したよ。」
マネージャーが嬉しそうに笑顔を見せた。
「統括…。」
マネージャーの言葉が信じられない私はポカンと口を開けて間抜けな顔をする。
本店の統括…。
地方百貨店であるうちの店はせいぜい5店舗しか存在しない。
首都圏の本店を中心に地方で4店舗。
私は本店に一番近い店舗の社員。
その私が本店でしかも統括になるとマネージャーが言うのが信じられない。
統括になれば5店舗の全ての店で扱われる商品のバイヤーになる。
一店舗の特設なんて程度扱いで、そのレベル以上のものを求められる立場への栄転…。
「それ…、本当ですか!?」
マネージャーに掴みかかる勢いで確認してた。
「うん…、僕達としては寂しくなるけど阿久津さんの頑張りはこの一店舗で終わらないって上が判断したみたいだよ。良かったね。」
5年間…。
売り子から始まりバイヤーとして自分で商品を求められる立場になるまで必死に努力した。
その5年間を寄り添ってくれた克に一番に知らせたいと普段は私用の携帯を使わないのに、今だけは急いで克にメッセージを送る。
『本店に統括で栄転になるの。』
きっと克は喜んでくれる。
そう思ってたのに…。
発注の仕事をしても、次の売り場の仕事をしても克からの返事がない。
メッセージは既読になってる。
「克…?」
今までに、こんな事はなかった。
私が残業だとメッセージをすれば5分以内に頑張れと返してくれる優しい人…。
今日に限って不安になる。