この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
妹
第3章 三日月
「雅さん、高嶋君、急に呼び出して申し訳ない」
重役と一緒に席についていた木村弁護士が、何事かという表情の二人に声をかける。
「大阪支店で事件が発生してね、至急高嶋君にも大阪に行って貰いたい」
雅さん、申し訳ないと木村は軽く頭を下げる。雅は軽くかぶりを振り一歩下がった。
ここは雅の出る幕ではないだろう、東海林に連れられて重役会議室から辞去した。
「お兄様も大阪に行かれるのかしら?」
長身の東海林を見上げるように、雅が尋ねる。
「まだ、決まっていないようですが、おそらく社長がお出向きになられる必要のあるレベルだと思います」
そうと雅は呟くと、薄く眉間にしわを寄せる。
それを見ていた東海林が気遣い、
「何かご予定でもございましたでしょうか」
とスケジュール手帳をぱらぱらと確認し始める。
「いいえ、何もないわ――東海林」
呼ばれた東海林は軽く膝を折り、雅に視線を合わせる。
「お兄様から目を離さないでほしいの――」
「それはどういう……」
社長に何か身の危険でも迫っているような言い回しに違和感を覚えたのか、東海林が雅に聞きなおしてきた。
しかし、雅の黒曜石のようなしっとりと濡れた大きな瞳に見つめられると、陶酔したように、ただ「畏まりました」と呟いた。