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妹
第6章 幾望(きぼう)
「結局、私達兄妹は鴨志田の檻から逃げ出せない……。私だけ一族の為に政略結婚させられるなんて、割に合わないじゃない? だったら、お兄様にも好きでもない相手と一緒になってもらうわ!」
(そうしたらお兄様の心は、永遠に私のものよ――!)
初めて雅の心の奥底の想いを聞き、敦子はただ、驚愕の表情を浮かべていた。
しかし、やがてそれは可愛そうな子供を見つめる顔に変わる。
「……雅さん、それが虐待から救えなかった月哉さんへの、復讐なの?」
「…………………」
(復讐――?)
「……そう……ね、そうなのかもね……」
雅の口から渇いた笑いがこぼれる。
敦子はつらそうな顔で雅を一瞥して、部屋を出ていった。
扉が閉まると同時に、ぴたりと雅の笑いが止まる。
(……そうなのかしら。私、お兄様に復讐したかったのかしら……。大好きなのに……こんなにも愛しているのに――)
「……………」
部屋に一人になると、毛羽立っていた気持ちが急速に平になっていく。
浅くなっていた呼吸も、徐々に深いものへと戻っていく。
心の奥底に誰にも知られずに溜めてきた想いを、洗いざらいあの女に話してしまった。
お兄様に伝えられたら、私も終わりね……もうお兄様はどんなに言い訳しても、こんな私を愛してはくれないだろう……。
――いや違う。
お兄様は私が虐待されていたことを、知っていた。
けれど、私には何も言わず、知らないふりをずっとし続けてきた。
なぜ――?
どうして――?
私が木村弁護士に口止めをしたから?
それとも……ただ……
面倒――だった?
雅は両親が亡くなり、宮前の者達から虐待され始めたとき、まだ十六歳の月哉につらい顔をさせたくない一心で、我が侭や自我を押さえ込んできた。
ただ愛してくれているだけで幸せだったし、そこに――兄の隣に自分は存在してもいいのだと、そう思えるだけで、自分の気持ちなどどうでもよかった。
(お兄様の傍にいるときだけ、自分が生きていることを実感できた)
『雅。あんたはね、人形なの。
我侭を言わず、綺麗に着飾って、
大人になったら、私達の都合の良い相手のところに嫁に行けばいいの。
あんたはね――私達一族の為だけに、存在していればいいのよ』