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もうLOVEっ!ハニー!
第8章 優越鬼ごっこ

「いやあ……くーちゃんにもとうとう春を夢見る時がきたのかと思うとお兄さん嬉しくて」
「……は?」
 こばるをゴミを見る目で睨む尚哉をマリケンが宥める。
「なんなの」
「応援したいんだよ」
「なにをだよ」
 ヘッドホンを揺らしながらマリケンが微笑む。
 いつもは安心するその笑いが、今は尚哉をざわつかせるだけだった。
「……新入生のかんなちゃんが好きなんだろ?」
 絶句する尚哉の隣で、こばるも口を開けて固まった。

 夕方、学園の中をなんとなく散歩しているとピアノの音が聞こえてきた。
 誰でしょう。
 クラシック音源かと初めは錯覚するほど滑らかな音色だった。
 夕陽が差し込む廊下を音が美しく色付けする。
 鍵盤を楽しげに舞う指が目に見えるような、軽やかな音階。
 私は導かれるようにピアノ室の前に来ました。
 あ……
 音が止んだ。
 どきどきしながら取っ手に指をかける。
 蘭のお茶会に参加したときみたいに緊張している。
 一息吸って、扉を開いた。
「やあ。いらっしゃい」
「ぴゃっ」
 目の前に立っていた人物につい小さく悲鳴をあげてしまった。
「足音が聞こえたから、ルカか亜季だと思ったんだけど……あの二人なら演奏中でも開けますからね」
 奈己先輩。
 バスケの時参加していた以来、ほとんど姿を見かけていなかった。
 白い髪が夕陽を含んでオレンジに艶めく。
 女性よりも美しい方です。
「あっ、えっ.スミマセン……邪魔しちゃいましたか……?」
 白いシャツに黒のスラックスの奈己はにこりと笑ってピアノの方に戻る。
「別に良いですよ」
 そう言いながら長い指で鍵盤に赤い布を被せる。
 もう弾かないんですね……
 少し残念ですが、促されて中に入ります。
 奈己は壁にもたれ、私にピアノの椅子に座るよう言った。
「ちゃんと話すのは初めてですね」
「はい。先輩はいつも三人方でいらっしゃるので」
「ああ……確かにね」
 この人の笑顔は何だか不安になります。
 脆そうで。
 儚くて。
 何故でしょう。
「あ、あの」
「うん?」
「歓迎会のとき……亜季先輩に言われたんです。先輩は自分のものだって」
「亜季が?」
「はい。だから……なんか話しかけづらくて」
「くっ、ふふ……本当に? 全く……困った人ですね、あの人は」
 そう幸せそうに呟く。
 
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