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もうLOVEっ!ハニー!
第8章 優越鬼ごっこ
ぬるりと舌が触れあった瞬間、意識せずに薫を突き飛ばしていた。
タイルの床に倒れた薫が身を起こしながら鋭く睨み付ける。
「なあんだ。ヤリチンなだけでキスとかへたくそなんだね」
「てめぇ……」
唾液が不快で吐き出す。
「そうやって健気に待つんだ。ばっかみたい……本当に」
言い返す時間も与えずに薫はタタッと出ていった。
その背中を一瞥して、つばるは振り返って絶句した。
「見いちゃった」
白衣の隆人が、手をポケットに突っ込んで立っていたのだ。
「なに……し」
「おはよう、早乙女つばるくん」
管理人が朝の玄関にいるのは別に変なことではないかもしれないが、あまり見られたくなかった相手。
こいつには見られたくなかった。
というより会いたくもなかった。
苦手だったからだ。
初めて話したとき、掴みづらい相手だと思った。
かんなの一件もある。
こいつのことはレベル5で警戒している。
「怖いよ~、なに考えてるの?」
「……別に」
「薫ちゃんは陸狙いだと思ってたんだけどなあ……従兄弟としても残念だ」
「あ?」
「さっきのキ、ス」
神経を逆撫でられたような不快感。
ゴシップ好きか?
つか従兄弟?
漆山と?
あの兄貴の友達か。
ああ。
少しは似てる。
そこでまた勝手に苛つく自分に自己嫌悪を感じる。
兄貴と俺も……
「あいつがしてきやがってんだよ……」
「レディは大事にしなよ」
「れ……で、い?」
やっぱ理解不能だ。
そしてそれは苦手意識を通り越して恐怖にすら繋がる。
「まあ、君はかんなに一途だもんね」
聞き逃しそうなあっさりした一言。
だが、脳が認識したとたん、体がかあっと熱くなった。
「なんつった」
「言葉遣い悪いね、早乙女弟」
「やめろ。その呼び方」
「随分と酷いことしてきたんでしょ? よく純情ぶってあわよくば思考出来るよね。若さが成す業かな?」
こいつ……
飄々とした態度の後ろに潜む冷淡さ。
調べてるのか、全員の過去を。
書類じゃ見えないはずの情報まで。
「見ていて面白いよ。一体だれが……ってね。こういうときに奪うのが一番格別なんだろうけど……それは未定かなあ」
「なにいって……」
「あ、おはようございます」
最悪のタイミングでヒロインのお出ましだ。