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もうLOVEっ!ハニー!
第9章 本性探し

 壱○八号室。
 隆人は学園から遠隔で移したデータファイルを開き、疼くこめかみを押さえていた。
 今朝の動画に現れた黒髪の一年生。
 御巫アリス。
 かんなたちとはクラスが違う。
 合同体育でも一緒にならない、接点はないはずの生徒だ。
 さて、これを職員会議に回すわけにもいかない。
 決めるのは松園かんなだ。
 選択は与えた。
 どうするんだろうな。
 マウスの上で人差し指を上下させ、アリスのデータを遡る。
 中学も西と東で違う。
 なら、入学式後から何かあったのか。
 手を出せないもどかしさ。
 上履きに針を仕込むような人間だ。
 歯を噛み締めた音が耳に響く。
 感情的になるな。
 この程度の問題で。
 鳴海の険しい顔が浮かぶ。
ー裁縫針を裏から固定してあったの。相当用意周到よ。明確な意志があるわ。気に食わないけどー
 昨晩は四本ビールを空けていたな。
 傍らのメモ帳に御巫アリスのクラスと番号をメモして千切り取った。
 部屋から出て、食堂に向かう。
 入り口の時点でこちらに気づいた汐里がカラカラと笑った。
「そんな珍しくないでしょ」
「珍しいさ。食べていくのか?」
「いや。食堂のおじちゃんにお使いのお願い」
「なんだ。もっと珍しいな」
「松園かんなが来たらこれ渡して」
 カウンターで並んでいた久瀬尚哉と手鞠賢が反応してこちらを見たが、なにも言わずに出ていくことにした。
 あの二人はまだ頼れない。
 頼るに値する生徒なんていたか?
 自嘲しながら部屋に戻る。
 途中で鳴海と出くわした。
「あら。もう食べちゃった?」
「匂いだけしか貰ってないよ」
「良かった。材料買ってきたから」
 重いスーパーの袋を受けとる。
 中身を見ると、麻婆茄子と炒飯だろうか。
「あのさ、御巫アリスって知ってる?」
「え? 御巫アンナの妹のこと?」
「あ。あー……そう。あのアンナの妹か」
 隆人は苦虫を噛み潰した顔で額を覆った。
 これは……
 ちょっと、大問題に発展しそうだ。
「麻婆茄子めちゃくちゃ辛くしよ」
「いいわねー」
 辛口を求めるとき、人は少なからずストレスが溜まっていると思う。
 医学的な根拠を鳴海に聞くのは次回にしよう。
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