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もうLOVEっ!ハニー!
第11章 写りこんだ隣の姫様
「好き、なんてわからない年齢よ……? そう深く悩まないで誰か一人に決めちゃった方がいいんじゃないかしら」
鳴海は相談に来た少女にボールペンを回しながら云ったが、彼女がその選択をするには状況が些か厳しいのはよく理解していた。
「あたしは誰も応援してないけどね。貴女は可愛いから、幸せになってほしいな」
「……なんで私なんですか」
ソファに裸足で体育座りしたかんなが呟く。
胸の中の黒い靄を排出するように。
鳴海はペンをおいて、彼女のそばに座った。
カウンセリングにおいて、距離は大きな効果を発揮する。
安心感という強烈な薬を生み出すために。
「あたしはね、単純だから。一番そばにいる人を好きになっちゃうの。ずっとね」
保健室の香りは肺の中を穏やかさでコーティングしてくれます。
なる先生の作るこの空間に私は甘えることを覚えてしまいました。
「まだ、人を好きになったことがない?」
「……なんだか、私曖昧で。キャンプのとき、ガク先輩と笑って話したのも嬉しかったですし、美弥さんが私を見て駆けつけてくれるのもドキドキしますし、昨日は尚哉さんの素直な言葉に泣くほど喜んじゃいましたし……」
他にもたくさん。
陸さんと手を繋いだときが懐かしいほど。
初めて、「あっ」て思わされたのは、つばるのハンカチかもしれない。
あんなことさえなければ……
ぞくりとした両肩を強く抱く。
「いいんじゃないの? それで。そうやって、想いをぶつけてくる相手にちゃあんと向き合ってて。貴女はいい加減な王女様じゃないわ。そこが惹かれるのかもね。なんだろ。貴女は、世界に無関心なんじゃなくて無知なだけ。それは凄く純粋ってこと。そうね。素朴ともちょっと違うのかな。そこがこの年頃の子の中では珍しいの」
パッと顔をあげて首を振る。
「そんなことありません。私、そんな……純粋じゃない……みんなが思ってるような」
ふいに頭に置かれた温かい手に口が止まる。
「女の子はね、自分を卑下しちゃ駄目なのよ」
にこりと笑ったなる先生は、とても綺麗で。
「私、わ、たし……慣れなくて。今まで、男子も女子も先輩も後輩も家族も私のこと目になんて入ってなかったから……こんな、いきなり」
「羽化したのよ! 蛹が。それでいいじゃない」
羽化。
私が。
蝶は数多の香り上げる花のどれをどうやって選んでるんですか。