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もうLOVEっ!ハニー!
第11章 写りこんだ隣の姫様

 去年のキャンプはトラウマだ。
 コロッケ早食いに勝利したガク先輩がニヤニヤしながら俺の肩に手を回し叫んだのだ。
「今夜はくーと過ごすわ! 邪魔せんといてな」
 ばちんと決めたウインクに、入学して二ヶ月の俺は失神しそうになった。
 くー、を広めたのも奴だ。
 正直、苦手。
 ノリがいいでは済まされないことをする。
 別に性的に見られているわけではないこともわかっている分、面倒に感じる。
 入寮して初めて話した先輩というのもあって、一年時はなにかと世話をみてもらったが、今年度に入ってからは距離を作った。
 その結果かどうかは知らないが、かんなに関心が向くことになった。
「汐里アニキは彼女いんの」
「んん? そうだな。いたな」
 食堂に案内されたとき、隆人が「黒瀬アニキ。久瀬と名前がかぶってるんだよね。奈己と鳴海もややこしいのにさあ」と茶化していた。
 名字が似通っているだけで親近感は湧く。
 弟のように扱ってくれるのは楽だし。
「アニキが告白したの?」
 ぺたぺたする生地を器用にドーム型にする汐里の手つきを観察する。
「したなあ。親父が古風だったから、二十代前半でバラの花束買って、駅前で膝ついて」
「それプロポーズじゃん」
「かっかっ、言われたさ。別れるときも彼女はあの時がプロポーズだったら結婚してたのにって言い捨てていったよ」
「めっちゃ好きだったんだ」
「めっちゃ好きだった」
 三十路には似合わない軽い言い方に、目を見合わせて笑ってしまう。
 でもなんか、格好良いな。
「好きってのに理由はいらねえんだ。気づいたら夢中になって、なんでもやりたくなってる。付き合ってた頃は、男らしく奢って、調子乗って車飛ばして、彼女の良いと云った服を着たさ」
「暴走……」
「そう。暴走よ」
 汐里はビシッと人差し指を向けた。
 それをくるくる回す。
「後でなにやってんだよ、って反省会しまくって、傷ついて、更にピエロになる。それの繰返し繰返し。でもな、そのときはそれが楽しかったんだよなあ。不思議と」
「楽しい?」
「しくねえのか?」
 にかっと笑った顔から目を逸らしてしまう。
 ああ、だっせ。
 全部言う通りじゃん。
 聞きたいこと聞いて満足しろよ、俺。
 くそだせえ。
「……ありがと。アニキ」
 出来上がった生地を指から剥がす。
「応援してるぞ」
「はいはい」
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